バンコクと香港のクラブ・ライブハウスの状況から大阪を考える。

大阪で多くのクラブが「風営法違反」で摘発された。営業停止に追い込まれたクラブもある。ずっと以前からクラブが摘発されるニュースを目にすることはあったが、ここ数ヶ月は大阪市内、特にアメリカ村のクラブをターゲットに大胆な数の取り締まりが行なわれていたようだ。
クラブ関係者、クラブに足を運ぶ人たち、昔クラブに通っていたけれど今はあまり足を運ばない人たち。それぞれ、いろいろとこの問題について考えたと思う。Offshoreとしては、「アジアでは一体どうなっているのだろうか?」という疑問がまず浮かんだ。アジア滞在中に直接音楽関係者に聞くことができた、よく似た話を2つ紹介したい。

【現在「営業停止命令」と戦う香港ライブハウス“Hidden Agenda”の反抗】

香港には、ライブハウスが1つしかない。ライブハウスという言葉の定義をどう捉えるかがまた難しいところだが、ここでは、インディーズアーティストが出演していて、前衛的で、どちらかというと利益よりもクオリティを重視しているスペースとしよう。その唯一のライブハウスは、Hidden Agenda。MTR牛頭角駅と九龍湾駅のあいだ、観塘区の工業地帯にある。
Hidden Agenda official website http://hiddenagendahk.com/

今回の話は、White Noise Recordsというポストロック、エレクトロ、ノイズ、実験音楽などを扱う香港のレコードショップのGary Ieong氏に聞いた話。彼は、White Noise Recordsの店長でありながらライブイベントなどのオーガナイズもする。もちろんのことだが、香港ならびに日本・中華圏、アジア全体のアンダーグラウンドミュージックに精通している。

では、香港Hidden Agendaは香港政府にちゃんと認められ堂々と営業している場所なのだろうか。答えはNO。ライブハウスを経営する為に必要な様々なライセンス料を支払えていないし、Hidden Agendaが位置するのは工業ビルの一つのフロア。香港の法律上では、工業ビルを他の用途で利用するにはさらにその物件の用途を変更するための料金が必要なのだ。違法のなかで静かに香港アンダーグラウンドを支える隠された場所、まさにHidden Agenda。実は、香港には他にもたくさんライブスペースやクラブがある。しかしそのほとんどが香港島の中環地区などの商業地に位置していて、それらは法律をクリアしている。香港を訪れたことがある方ならご存知かもしれないが、中環地区には海外企業や駐在する外国人も多く、ゴージャスなビルや店が建ち並び、アジア経済の中心地であり、「外国人がしっかりとお金を落としてくれる地区」となっているのだ。それぞれのスペースは前衛的な音楽よりも一般にウケるポピュラーな音楽を流すクラブ。満足な収入があるので、香港においてクラブ営業をするのに必要なあらゆるライセンスへの料金を払える。Hidden Agendaはどうしてあらゆるライセンス料が払えないのか。週末がメインの営業で、開催されるイベントの内容は、アジアを中心に世界のインディーズ、しかもコアで実験的なアーティストが主で、売上が良いイベントをやっているわけではない。Hidden Agendaのスタッフたちが信じているものは、音楽の内面にある力なのだ。

>>>Hidden Agendaが位置する工業ビル1階のエレベーター。

2011年3月30日に、GaryにこういったHidden Agendaにまつわる話を聞いた。当時Garyは「今はまだ隠れてやっているから香港政府は口出しをしない。いつかHidden Agendaが有名になるとすれば、政府も黙ってはいないだろう。」と言っていた。ところが、ついにそれが現実となってしまったのだ。2011年5月のある日、Hidden Agendaに一通の書簡が届いた。香港政府からの「営業停止命令」だった。工業ビルを違う目的で利用していることが違法だとして、2011年6月21日までの営業停止を求めた。その情報はfacebookを通して一気に香港、いや世界に広がり、今までにHidden Agendaに出演したアーティスト、Hidden Agendaに訪れたことのある世界中の音楽ファンによってシェアされ拡散された。

>>>Hidden Agenda x 本地音樂界大反擊:一人一信炸爆地政署 (English inside)

その後、Hidden AgendaスタッフよりFacebookを通して最新の情報が発信され続ける。ボランティア弁護士の協力を得て、現在はなんとか来年1月の賃貸契約満了までの時間稼ぎをしている状態だ。6月21日までの退去は一旦免れたものの、香港に住むアンダーグラウンド音楽ファンにとっては不安な状況が続いている。そもそも、観塘区はSARS流行時に香港内で感染者数が一番多かった地区。打撃を食らった観塘区の工業ビル主たちはSARS以後、アーティストやミュージシャンに安い家賃で工業用テナントを貸すようになった。そういった経緯から、Hidden Agendaの周辺地区には多数の香港アンダーグラウンドカルチャーが産まれるスペースが点在しているのだ。しかしこれらも同じく違った目的で工業用テナントを利用しているため、違法となる。Hidden Agendaが停止命令を受けたことで、同じ観塘区のアーティストやミュージシャン達も次は我が身かと不安な状況なのだ。
そんななか、香港は7月1日を迎えた。香港で7月1日といえば、香港返還の日。大規模なメモリアルウォークに老若男女が参加する日だ。2011年7月1日、Hidden Agendaのスタッフや常連アーティスト、常連客で構成されたグループは、Hidden Agenda存続のためのサウンドデモを行なった。その模様がYou Tube動画で公開されている。

>>>Hidden Agenda 7.1要上街 / 搖滾喺街遊行

今もHidden Agendaでは質の高いライブイベントを繰り広げながら、香港政府にアンダーグラウンドカルチャーの重要さを訴え反抗している。すでに今年いっぱいはイベントがフィックスされている。今後、Hidden Agendaスタッフと香港オーディエンスたちがどういった行動をおこしていくか、Offshoreとしても注目していきたい。

参考記事
CNNGo.com:Hong Kong's underground venue Hidden Agenda refuses to close


【バンコク在住 清水宏一さんに聞くタイのクラブの状況】

webDICEでの連載「アジアン・カルチャー探索ぶらり旅」では、SO::ON Dry Flower(ソーオン・ドライ・フラワー)というバンコクを拠点とするレーベルのオーナー、清水宏一さんのインタビューを掲載した。webDICEでは字数の都合上カットしたのだが、清水さんにも大阪のクラブ取り締まりについてお話し、バンコクは一体どういった状況になっているのかを聞いてみた。インタビュー形式でお送りする。


>>>2011年7月に清水さんが自ら運営するSOLでオーガナイズしたイベントの様子。Lymbic System(from USA)やタイの若手アーティストが出演。



──つい先日、大阪のクラブがまた2軒摘発されたみたいなんですよ。だいたいの現存するクラブは飲食許可は取ってるけど風営許可を取っていない。そしてコストのかかる風営許可を取ったところで1時以降はダンスしてはいけない、っていうのが現行の法律のようなのですが。タイはそういう法律や取り締まりってありますか?

じゃあ法律はタイと一緒だ。タイにもクラブ営業は1時までという法律がある。

──だからバンコクのクラブはだいたい1時までなんですね。

そう。今は取り締まりが厳しくなったから1時に全部閉めちゃう。昔は朝まで営業してたけど。

──取り締まりが厳しくなった頃って、タイの人たちはどんな反応でした?

文句言ってたよ。今はもうみんな慣れちゃったけどね。

──バンコクはそれで慣れているわけだし、日本もそれが落とし所では?と思ってしまいます。

でもやっぱり一番盛り上がる時間帯に閉めちゃうからね。

──なるほど。橋下府知事はこの前「大阪カジノ構想と連携したクラブ特区」という提案をしたみたいです。公な場での発言じゃないので実際に取り組むのかどうかは不明ですが。

RCAは特区になってるから深夜2時までなんだよね。特区でも2時まで。警察にコネがあるところは6時とかまでやってるけど、限られたところだけ。タクシン政権だった数年前に取り締まりが厳しくなって、一斉に摘発とか、いきなりクラブ閉店時間を早めるとか、急だった。タイの場合は結局、薬物一掃のためにクラブも取り締まられた感じだね。

※RCAとは… Royal City Avenue略してRCA。大型スーパーなどもある通りなのだが、タイ・バンコクで「RCA」と言えば、まずはみんながこのクラブ通りのことを連想する。Route66、808などのクラブがずらっと並ぶ。

>>>これがそのバンコククラブ特区であるRCA。さすがにここまで人が少ないタイミングも珍しいのだが、こういったゴージャスな装飾のクラブが並ぶ。



清水さんにお話をうかがった後日、実際にRCAを夜歩いてみたが、そのときの様子が上記の動画だ。特区となり行政に区切られてしまうと、それはそれで真のアンダーグラウンドカルチャーはそこでは育たなくなるのかもしれない。アジア旅行中、北京に滞在した際に思ったことがあった。北京には798やno.46という数字の名前がついた区切られたアート地区がある。そこにはアートレジデンスやギャラリーがたくさんあり、観光客としては今の中国の中堅~若いアーティストの作品を一気に見ることができる便利な場所だ。だが、なんとなくアートが本来持っているはずのパワーが薄いような気がしたのだ。アートやカルチャーというものは、何かに管理されずインディペンデントな場所やコミュニティでこそ強烈な個性を持ち、世界に向かって育っていくのかもしれない、と感じた。

もし、大阪にクラブ特区が設置され、朝5時までクラブ営業できる場所が区切られてしまうと、どうなるのだろうか。

何を発信し、どういったカルチャーを育んでいくのか。大阪に根ざしているものをどのように世界に発信していくのか。アートやカルチャーの在り方や見せ方を熟考したうえで、どのように行政とつきあっていくのか。今こそ、それぞれが考え会話していく必要があるし、不幸ではあるけれど絶好のタイミングであり、戦略を練るチャンスなのではないだろうか。大阪で活動するアーティスト、音楽関係者、音楽ファンに、この香港とバンコクの現状もぜひ知っていただき、今後のディスカッションの材料にしてほしい。

text by : 山本佳奈子(Kanako Yamamoto)