北京発グランジ系ロックバンド【刺猬(Hedgehog)】に聞く中国の「事情」

北京には数えきれないほどのインディーズバンドがいる。おそらく、日本以外のアジアで、現在一番アンダーグラウンドミュージックが盛んな都市が、北京だ。素晴らしい音を聴かせてくれるバンド・DJなどもまた多く、北京に滞在する機会があるのであれば、北京でアンダーグラウンドミュージックを体験しないなんてもったいない。

>>>左上:Atom(Drum/Vocal) 右上:Fun(Bass) 下:ZO(Guitar/Vocal)



北京を拠点に活動する数多くのアーティストのなかで、今回紹介するのは刺猬(Hedgehog)という3ピースバンド。Guitar&VocalのZO(子健)、BassのFun(何一帆)、Drum&VocalのAtom(阿童木)は全員1983年生まれの現在27歳。私が彼らのライブを見たのは香港のライブハウスHidden Agenda。今まで北京のバンドのサウンドには触れたことがなく、実はあまり期待していなかった。日本と比べると、まだまだクオリティが低いのではないかと高をくくっていた。だが、彼らのライブを見て、一気に北京に対する印象が変わった。ドラムセットに隠れてしまいそうなほど小柄で可愛らしい女の子Atomが叩くドラムはずっしりと重くオーディエンスの体に響き、また彼女のビートの表情とは裏腹に歌声は可愛らしく、そのギャップに男女とも一瞬で惚れてしまう。ZOの歌とギターは遊び心に溢れ、ノイジーでありながらもじっくりと聴いてしまう。その2人をしっかりと支えるのがFunの安定感のある太くクリアなベースライン。ここまで完璧なバンドが北京インディーズシーンに存在するのか!と、とにかく衝撃だった。北京滞在中に彼らと夕食を共にする機会があり、現在の中国や彼らを取り巻く環境について聞くことができた。

刺猬 Hedgehog Official Website http://hedgehogrock.com/


>>>2011年3月27日、甜蜜与杀害(Honeyed And Killed)2011ツアーの1つとして行なわれた香港Hidden Agendaでのライブの一部分。カメラのマイクのクオリティが低いため音が聴きにくいが雰囲気だけでも感じていただければ幸い。

【北京の中心で刺猬とロバ肉パイを食べる。】

まず、北京市内で行なわれた刺猬のリハーサルにお邪魔させてもらった。リハーサル後、夕食に出かけるという彼らに同行することにした。ZOとAtomが何やらうれしそうに「日本人って基本的になんでも食べるよね?ロバ肉のいい店知ってるんだけど。(笑)」と私に聞いてきた。私は「ロバ?!食べたことないけど…でも刺猬メンバーのオススメなら何でもいいよ。」と答え、実際に「ロバ肉パイ」のローカルレストランで夕食を取ることとなった。Atomは車で来ていたので、Atom以外の私を含めた3人でビールで乾杯。ZOが適当に注文してくれて、テーブルの上にはおからのような和え物や、大豆の酸味のある和え物、そして4人それぞれにスープとロバ肉パイ1つずつが並んだ。ZOは「ロバ肉パイは北京名物。Kanakoは味わえて良かったね!日本にはないんだよね?ちなみに昨日は俺たち日本料理屋に行ったんだよね。あれも美味しかったけど。」と私に言った。私は「日本料理?それほんとに日本料理なのかな。エセ日本料理も多いからね!(笑)」と返し、終始笑いの絶えない夕食だった。

>>>ロバの写真に赤丸・矢印で「我最棒!」と書いてある。どうやら豚や牛と比べて栄養が一番良いよ、ということらしい。このロバレストランには他にも壁にロバの可愛らしい写真が多く飾られている。

AtomとZOは英語を話し、中国語がまるでダメな私でも会話が弾んだ。刺猬は2005年、彼らが大学生の頃に結成された。刺猬が結成されてすでに6年になる。Funは2009年から加入したメンバーだ。3人とも現在は昼間は働きながらバンドでの創作活動をしている。中国大陸最大のインディーズレーベル「Modern Sky(摩登天空)」に所属しており、Modern Skyからは今までに3枚のCDをリリースしている。北京で行なわれる音楽フェスティバルに出演する常連バンドでもあり、今年の4月30日〜5月2日に3日間行なわれていたModern Sky主催の草莓音乐节(Strawberry Music Festival)にももちろん出演していた。

Modern Sky(摩登天空) http://www.modernsky.com/
草莓音乐节(Strawberry Music Festival) http://festival.modernsky.com/festivals/web/entry/

今年の草莓音乐节といえば、ひとつビッグニュースだったことがある。実は蘇州と北京、2か所で日程をずらして開催されるはずのフェスだったのだが、蘇州開催数日前に、オフィシャルサイトから「蘇州草莓音乐节は開催中止する」との知らせがあった。理由は、「開催予定地付近の天候状況が良くないため」とのことだった。なんて納得のできない理由なんだろう、と思ったが、ちょうどその頃は、中国を代表するアーティスト艾未未が中国当局に拘束されていた頃。蘇州草莓音乐节の中止が知らされる数日前には、艾未未の友人であるミュージシャンがコンサート中に艾未未の解放を訴える発言をしたというニュースも流れていた。

【北京で艾未未(アイ・ウェイウェイ)って言っていいの?】

刺猬のメンバーに「蘇州が中止になった理由ってやっぱり艾未未なの?というかむしろ、こんな北京の真ん中で『艾未未』という言葉を出しても大丈夫なのかな?」と聞くと、「うん。艾未未の事件が原因だろうね。そして、ここで艾未未って叫んだってまったく問題ないね。だってこのローカルレストランの中にいる人、働いてる人、全員が『艾未未』というアーティストのことなんて知らないから。」と。
ZOは、「艾未未というアーティストのことを知っているのなんて、中国国内ではほんの一握りの人たち。実は大半の人が『鳥の巣』を誰が作ったのかなんて知らない。こういうローカルレストランで働いている人たちはアートを知らないし、知る方法もないんじゃないかな。俺たちは音楽やってるから艾未未を知ってる。でも一般の中国人はやっぱりアートやアーティスト、そして民主化運動なんて知る術がないよ。」
さらに、「じゃあ艾未未が今回拘束された理由はなんだと思う?」と聞いてみると、ZOはこう答えてくれた。「俺たちが友達を経由して聞いているのは、艾未未は四川大地震に関するドキュメンタリーを作っているところだったということ。そのドキュメンタリーの中で、艾未未は四川大地震の被害者名簿を作成して、世界中から集まった四川大地震に対する義援金を、中国政府が何に使っているのかを暴こうとしている。中国政府にとっては知られたくないことだからね。」
言論の自由がない国で生き、表現するアーティストは、強い。そして、刺猬もあらゆるプレッシャーに戦い続けるアーティストなのだと思った。

【「台湾にライブしに行きたくても国の関係が原因でビザがおりないんだよ」

お互いの今後の予定の話をし、私がその後台湾を訪れることを話すと、ZOは細かく台湾のオススメアーティストや台湾のライブハウスの話をしてくれた。「台湾でライブしたことは?」と尋ねると、「俺たちはまだ台湾でライブしたことはないんだよ。台湾のアーティストはよく北京に来てくれるから、台湾バンドの友達はいるけどね。でも、知ってる?俺たちは中国のパスポートを持ってる。台湾にライブしに行きたくても、国の関係が原因で、ビザがおりないんだよ。」
そういえば、中国のパスポートを持つ人の台湾個人旅行が許可されたのもつい最近だ。そういった社会情勢も、文化の交流を阻むポイントになるのだ。オールマイティな日本のパスポートを持つ私たちにはなかなか想像できないことだ。だが、刺猬も過去2回アメリカにライブのために訪れており、今年の9月からまた2ヶ月のアメリカツアーに発つ予定だ。「2ヶ月もアメリカに行って帰ってきたら、今生活のためにやってる仕事、クビになっちゃってるかもね!」と笑う3人。彼らは彼らの音楽を世界に発信し続けていくだろう。いつか、彼らのライブを日本で見たい。

(ロバ肉パイの味は、何も言われなければロバとはわからない普通のミートパイでした。というのも、肉はミンチ状になっているので味や食感がよくわからないのです。今後北京に行く予定があれば、ぜひロバ肉で北京ローカルの味を味わってみてください。)


>>>刺猬(Hedgehog)の3人、ロバ肉パイのローカルレストランにて。ライブ中はクールな彼らのオフショットは貴重かも!


interviewed by 山本佳奈子 (Kanako Yamamoto)