【CREATORS FILE】香港気鋭のデザイナーGraphicairlinesにインタビュー

香港でクリエイター達がサバイブする方法

香港で大活躍するアート・デザインチーム『Graphicairlines』の2人に話を聞いた。頬の膨らんだ憎たらしいけれど憎めない愛らしいキャラクターFAT FACEや、まるで虫かモンスターのような小さな生物(?)MEATYが彼らのアイコン。もしあなたが香港を訪れたことがあるなら、これらをどこかで目にしているかもしれない。たくさんの愛らしいグッズたちは香港でクリエイターを目指す若者たちに支持され、また、彼らと同世代のクリエイターからも尊敬を集めている。「香港のストリートカルチャーは?」「香港のデザイナーといえば?」と香港の人に聞くと、必ず彼らの名前が出てくることだろう。そんな彼らは、コマーシャルな街・香港で“いかに生き抜くか?”についてしっかり考えていた。香港でクリエイター達がサバイブする方法、香港のストリートアートの状況について聞いてみた。

>>>左:Tat / 右:ViことKathy



Graphicairlines website : http://www.graphicairlines.com/

*2011年9月16日、観塘地区にある彼らのオフィス・作業場にて取材。
Sorry. This article is Japanese only.


>>>これが彼らの作業スペース&オフィス。

Vi: これがステッカーと、私たちの名刺です。どうぞ。

──この名刺、Graphicairlinesだけに、飛行機の搭乗券モチーフなんだ!

Vi: そう。いいでしょ?これはフライヤー。今度ちょうどMADHOUSEギャラリーでエキシビションするの。次の金曜日から。私たちのバンドも演奏したりね。

"MADBOY IN THE WONDERLAND" by GRAPHIC AIRLINES
at MADHOUSE contemporary / till 22nd Oct. 2011


──あ、そうだ、バンドやってるんだったね。なんてバンドだったっけ?G…

Vi/Tat: G LA G LA DI!

──そうそう、G LA G LA DI!どんな音楽やってるの?

Tat: パンクかな。みんなは僕らがやってる音楽はパンクだって言うね。

Vi: ノーウェーヴだ、とかね。

──でも自分たちではパンクと思ってないってこと?

Tat: パンクとはちょっと違うよね。

Vi: うん、純粋なパンクじゃないね。どんな音楽なのか自分たちでもわかってない。

──まあ自由に自由のためにやってるって感じかな?

Vi/Tat: そうそう!(笑)

それぞれのマスコットキャラクター『FAT FACE』と『MEATY』について

──それぞれの作品は2人で一緒に作るの?

Vi: うーん、一緒に作るときもあるし、別々に作るときもある、って感じかな。私たちはそれぞれ違うキャラクターを考えて作ったの。あの真ん中の顔がFAT FACEって言う私が作ったキャラクター。周りにいるのがMEATYっていうキャラクターで、Tatが作ったの。それでこの絵自体は共同で描いたわ。

>>>右の絵、中心にいるのがFAT FACE。周りにいる小さな生物がMEATY。

──なるほど。FAT FACEはいつでもGraphicairinesのサイトで見られるよね。このキャラクターの意味や、モチーフは?

Vi: このFAT FACEの顔っていつも膨らんでるの。都会にいる人々って、あるときはすっごい喜んだり、あるときはうんざりしてたり。簡単には満足しないのが今の人々。何かを手に入れれば他の何かを欲しがる。常に人の欲望は膨らんでる…。だからそれをこのFAT FACEの膨らんだ顔で表した。たぶん、彼って幸せじゃないように見えるでしょ?まるで今の都会の人々みたいに。彼らが満足しない様子を表したかったの。

>>>FAT FACE。ふてこくて、かわいい。香港のショップKUBRICKや、Graphicairlinesの2人の盟友であるストリートアート集団START FROM ZEROによるRAT'S CAVEなどで、あらゆるグッズとなった彼の顔を見ることができる。

──確かに彼は満足してなさそうだけど、でもかわいらしくて良いよね。MEATYにはどういう由来があるの?

Tat: MEATYはいつも表からは隠れてるんだ。MEATYは人の欲望みたいなもの。

Vi: だからFAT FACEの膨らんだ頬を切り裂くと、中からMEATYが出てくるっていう…。

──虫とか小さな生物みたいな感じだね。2人はデザイナーとしても活動してるんだよね?

Vi: Tatは元々デザイナーだった。彼は元々グラフィックデザインを学んで、雑誌や新聞社の仕事をしていたわ。

──どんな雑誌?

Tat: コンピューターやテクノロジーの雑誌だったね。

Vi: Tatはそのとき違う分野でデザインをしてた。エンターテイメントとかスポーツに関連する雑誌や新聞でデザインやってたしね。もう10年以上も前のことだけど。すごく退屈だったんじゃないかな。

Tat: うん、そうだね。

Vi: とても退屈な仕事だったから、Tatはもっと刺激的でクリエイティブな仕事がしたかった。それで彼はGraphicairlinesのウェブサイトを始めて自分の作品をアップロードするようになった。それで私も彼を知って、一緒にGraphicairlinesをやるようになった。
私は元々アニメーションを勉強していて、Tatはグラフィックデザインを勉強してた。私もTatもアートを勉強してない。でも共通の興味をたくさん持ったの。漫画、アニメ、おもちゃ、映画とか。だから私たちはかなり似たテイストを持ってると思う。一見醜い感じのキャラクターとか変なストーリーが好きだったり。それで意気投合してチームでやるようになった。

退屈なデザインを引き受けることも、生き抜く為には必要。

──今は2人ともアルバイトとか別の仕事はしてないの?

Vi/Tat: 今は2人ともフリーランスだね。

Vi: フリーランスだけど今もたまに企業の退屈なデザイン仕事とかを引き受けることがあるよ。

──Tatは元々クリエイティブだと思えないデザインやってたっていうことだけど、そういう作品も見せてもらうことができる?

Vi:

Tat: いいけど、それ見たい?(笑)

Vi: 今まで誰も彼の企業向けデザイン見せてって言ったことないよね(笑)。

──ぜひTatの違う一面も見てみたい(笑)。でもこれすごく大事だと思ってて、生きていく為に自分が面白いと思わないデザインもやってるわけでしょ?まさしくsurviving designってことだよね。

Vi: そうだね(笑)。

<実際にTatのsurviving designを彼のMacで見せてもらう。>

>>>彼らのオフィススペース。

──なるほど。なかなかいいじゃないですか。

Tat: いや、良くないよ(笑)。これって簡単な仕事なんだよね。フォントや文章をコピーペーストしていく作業とか、自分の頭で考えなくていい仕事。

──香港でのこういう仕事は、いいお金稼げるの?

Tat: 悪くはないね。

Vi: 毎月とか毎プロジェクトごとに同じ金額がもらえるわけじゃないけどね。

──ありがとう!ちなみに本当に居心地の良いオフィスだね。香港の人によく聞くけど、この辺りの観塘地区って家賃が安い地区なんだよね?

Vi: そう。都心から離れてるしね。特にこの部屋はビルの最上階にあるんだけどエレベーターはひとつ下の階までしか行かない。1フロア分だけ階段を使って上ってこないといけない。それに最上階だから夏は暑いんだよね。それもあって特に安い。

>>>彼らの事務所はこのビルの最上階。香港のライブハウスHidden Agendaから歩いて1分。

「オタク!」

──それにしても漫画コレクションがすごい。もう日本の漫画喫茶みたいな。

Vi: 日本に行った時、中野に行ったよ。中野ブロードウェイ。うちらオタクだからね(笑)。

──アニメも見るの?ドラえもんとかアジアですっごい有名だよね。

Vi: 私たちは小さい頃ドラえもんを見て育ったよ。日本の漫画とかアニメって香港の人たちにかなり影響を与えていると思う。

──Viは日本語勉強したの?最初会った時、「どうぞ」とか日本語少し話してたけど。

Vi: 大学時代に少し勉強したかな。なぜかというと、日本のゲームが好きで…(笑)。

──ほんっとオタクだよね(笑)。

Vi: そう、本当にオタク!日本のゲームしたときに画面に出てくる日本語読めるようになりたかったから日本語を少し勉強した。真面目に沢山勉強したわけじゃないから、初級だけど。

>>>彼らの本棚のごく一部。『火の鳥』から『絶望先生』まで…。

──Tatは日本語勉強した?

Tat: いいや、勉強してないね。

──じゃあオタクじゃないんだ。

Tat: いや、僕もオタクです!中学生のときは一切勉強してなくて、ひたすらテレビゲームと漫画、あとバスケットボールの毎日だった。ほら、オタクでしょ?(笑)

──なるほど。Graphicairlinesはオタクチームということだね!
じゃあ話を戻してGraphicairlinesの作品に。この写真は実際に撮ったの?巨大な人形が香港の道路の脇に座ってる。


>>> 銅鑼湾のそごう前。左脇にGraphicairlinesによって製作された巨大な人形が置かれている。それを怪訝そうな顔で見る人たちが写っていた。

Vi: そう。私たちが作った大きなキャラクターを街に置くパフォーマンスを香港の数カ所でやったの。2、3人でこの人形を運んで設置してその場を離れる。そして少し遠くから写真を撮って。街の人たちがどういう反応をしているのかを見ていたわ。

──街の人の反応はどうだった?

Vi: 場所によって反応が違う。中環(Central)ではみんな記念撮影したり、「いいね!」とか「面白い!」とか言ってくれた。でも銅鑼湾(Causeway Bay)でやったときは、とても嫌がられたわ。なぜなら、銅鑼湾付近を歩く人って会社員が多くて、歩くスピードが速い。みんな自分達が歩く道がこの人形に妨げられて腹立ってた。中にはこの人形を殴ったり蹴ったりする人もいたわ。北角(North Point)では古いストリートで置いたの。あまり人通りもなくて反応を見るという雰囲気ではなかったかな。そこは香港では昔グラフィティアートがよく描かれていた場所。でも今は新しい公園ができて、北角ではもうグラフィティ見られないね。

──2人もよくストリートで活動するの?

Vi: そうね、私たちも最初はストリートから始まったの。ギャラリーを探してエキシビションを開催するっていうことよりも、自分たちを表現する場として、ストリートが合ってると思ってる。誰にでも見てもらえる機会があるし。私たちはストリートカルチャーに触れるのがすごく楽しいし、そこでたくさん友人もできた。みんなで夜に街へ出てステッカー貼りにいったりね。

香港のストリートアートの状況

──今、香港で一番グラフィティアートを見るのに良い場所は?

Tat: 旺角(Mong Kok)かな。

Vi: そうね。MTR旺角駅から近いところに、いろんなストリートアートが見られるわ。昔は観塘の港のほうでもグラフィティアートが多く見られたけど、きれいな公園ができてしまったし、今はもう見れないね。

Tat: 今はグラフィティやる場所を探すのも難しくなったね。都会から外れて住宅街や田舎に行かないといけなかったり。

Vi: 香港の街はすごい勢いで変わってる。古いビルが壊されて新しいビルが建って、ショッピングモールになったり。

──香港でも誰かが街の壁にグラフィティを描くと、すぐ消されてしまう?

Vi: うん。すごく速いよ。速ければ次の日に消されたり。だからできるだけ少しでも長く残りそうな場所を探したりする。まずはステッカーで試してみて、いつそれが剥がされるか後日チェックしに行ったりね。

Tat: やっぱり古いビルの壁に描かれたアートのほうが長持ちしてるね。

Vi: 銅鑼湾(Causeway Bay)や尖沙咀(Tsim Sha Tsui)はすぐ消されちゃう。

──日本も含め世界で同じ状況だろうね。

>>>現在は香港Hidden Agendaの壁やバーカウンターにも彼らのアートを見ることができる。これはHidden Agendaのバーカウンター。(photo by Nishimiya Ryuhei)

Vi: 東京へ行ったときもステッカーを街に貼ったわ。渋谷だったかな。あのナイキに買い取られようとしてる公園あるでしょ?

──宮下公園だ!

Vi: そう、その公園の近くとかに貼ってたわ。あと渋谷に見つけた廃墟とかにも貼ってた。廃墟はもう今はないみたいだけど。でも私たちが思うに渋谷の街の壁ってグラフィティアート多いよね。ステッカーも多いし。東京でステッカーを貼って1年後、また東京を訪れたときに、自分が貼ったステッカーがあるかどうか確かめに行ったら、まだ剥がされてなかった。東京は大きい街だしそんなに早く消したり剥がしたりすることができないのかもしれない。香港には街の清掃員も多いし。

──ちなみにバンクシーは香港でも有名?『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』見た?

Vi/Tat: もちろんバンクシーは香港でも有名。映画も見たよ。

──映画館で見たの?

Vi: 友達と集まってDVDで見たわ。

──映画館ではやっぱり見れない?

Vi: 香港の映画館ではあんな映画は上映してくれないね。あなたは映画館で見たの?

──うん。大阪の映画館で見たよ。日本には香港に比べればたくさんのミニシアターやアート系映画館がある。

T:香港には今はたったひとつかな。

Vi: 自分の持ってるDVDを個人的に上映してる人はいるけど、正式な映画館や上映ではないね。Hong Kong Arts Centreではたまにアート映画の上映をするけどね。

──香港って私の印象としてはかなりのコマーシャルシティで、インディペンデントでやっている人にとってはつらい状況が多いと思う。

Vi: そうだね。でも最近は少し良くなったかな。

Tat: うん。ベターになったね。

Vi: なぜかっていうと、大企業は今、香港ローカル、香港に住んで実際に活動しているクリエイターと組もうとしてる。だから一部のクリエイターは以前ほどの苦労をしなくても、クリエイティブなことでお金を稼げるようになってるかもしれない。

>>>Tatがボールペンだけで描いたという掛け軸アート。

>>>こちらもTat作、香港デジタル・デザイン・トーナメント2007のポスター。

「香港のデザイナーは、自分の専門分野だけでなく、
 あらゆるクリエイティブな仕事をしている。」

──どうして大企業が香港のローカルクリエイターと組もうとしてるの?

Vi: ローカルのクリエイターをサポートしようとしてる。

Tat: ローカルのクリエイターを支援することで、大企業のプロモーションにもなる。マーケティングにもなるし。ここ5年ぐらいのことだね。

Vi: その背景には香港返還がある。香港は1997年に中国に返還された。中国に返還されたときから、香港人は、中国大陸とは違う香港独自のアイデンティティを守ろうとしてるわ。

Tat: 香港の人たちはローカルをサポートすることを望んでる時代だね。でも返還前は香港人は香港のアイデンティティを重要視してなかった。

Vi: そう。返還前、香港人はいつでも海外のアーティストに注目してた。日本、ヨーロッパ、アメリカとか、香港の外ばかり見てた。でもこの数年で香港の誰もが、香港を中国と同化しまいとする風潮が強くなってきた。だから大企業もローカルのアーティストと組んだ方が良いと考えるようになってきて、香港でインディペンデントにやってるアーティスト達に興味を持ってくれるようになったかな。それによって香港ローカルのアーティストがコマーシャルになっていくっていう現象も見られるわ。香港はまだ経済が成長しているし。生き抜く為にはコマーシャルなこともやっていかないといけない状況だね。ちなみにHK Honey(*香港の高層ビルの屋上などで養蜂をするプロジェクト)のマイケルだって、あのプロジェクトだけやっているわけじゃなくて、普段は大学でプロダクトデザインを教えてたりする。HK Honeyのワークショップやイベントも積極的にやってるし、他のプロジェクトに参加することもあるし、いろんな方法でなんとかsurviveしてるっていう感じかな。

Tat: うん、僕たちと同じだね。フリーランスとして自分の本当にやりたい創作活動もするし、企業のコマーシャルなプロジェクトにも参加するし、あらゆるプロジェクトに関わってる。

──ちなみに日本の人たちって香港のクリエイターたちがどういう活動をしていてどういう状況にあるか、って、ほとんど知らない。私は香港にこんなに面白いクリエイターたちがいることを知ってすごく面白いし、香港のクリエイターたちのsurviveしていく方法も面白い。

Vi: 私が知ってる日本の状況って、例えばグラフィックデザイナーはグラフィックデザインだけやってたり、ファインアーティストはファインアート、プロダクトデザイナーはプロダクトデザインだけやってたり。専門分野がきっちり分け隔てられてる印象だったわ。そしてそれぞれがそれぞれの専門的なコミュニティの中にいたりする。

──確かに!

Vi: 香港ではまったく逆で、香港のクリエイターたちはそれぞれのジャンルを越えてひとつのものを作ったりする。例えばTatは絵も描くしグラフィックデザインもする。香港のデザイナーはみんな自分の元々の専門分野だけでなく、あらゆるクリエイティブな仕事をしているわ。専門性にこだわらないからこそ、私たちは今まで経験したことのない経験をすることができるし、surviveしやすいのかもしれない。それに日本に比べると香港は人口も少ないから全体としてのコミュニティが狭い。

Tat: だからコミュニケーションするのも日本に比べれば簡単だね。すぐそこにグラフィックデザイナーもいるしストリートアーティストもいるし。異業種が集まって何かプロジェクトを始める、ってことがしやすいんだよね。

──なるほど。本当に香港の人たちから学ぶことはいろいろあるね!ありがとう!

>>>彼らのオフィスへの入り口。

interviewed by 山本佳奈子(Kanako Yamamoto)