香港インディペンデント映画祭開催中!香港のインディー映画監督たちにインタビュー

現在香港では小川紳介のドキュメンタリー作品の上映を皮切りに、香港獨立電影節(Hong Kong Indie Film Festival 2011)が開催中。この映画祭を企画する団体が“影意志(Ying E Chi)”。香港で唯一とも言えるインディペンデント映画の配給や上映を行なう組織だ。その影意志のメンバーであり映画監督でもあるVincent Chui、そして昨年の香港映像祭ifvaで賞を取った若干25歳の監督LO Chun-Yipに、香港の映画事情について話を聞いてみた。
実は、香港にある映画館ではアート系フィルムやインディペンデントな映画が上映されていることはほとんどない。香港の映画館はどこもラグジュアリーな内装で、ハリウッドや香港のベタな商業映画しか上映されない。カンヌ映画祭でパルムドールを獲った『ブンミおじさんの森』でさえも、香港の1つの映画館で、ほんの3日間、1日1回の上映だったのだ。日本とはまったく比べ物にならない状況。世界にはメインストリームにならない映画がたくさんあり、そういった映画にこそ素晴らしい作品が多い。香港では、そういった作品を映画館で見る機会が極端に少ない。私は2人の映画監督と話すことで、あらためて日本の恵まれた状況を理解した。そして、彼らと協力することで、良質な映画を見られる機会が香港で増えることを切望する。その最初のステップとして、まずはこの記事を書いた。香港で映画を作るインディペンデントな監督は、今、何を考え、どういう状況にあるのか。

【香港獨立電影節 HKIndieFF 2011-12】
http://www.hkindieff.hk/
唯一と言ってもいい香港のインディペンデント映画祭。Hong Kong Arts Centre内にあるシアターagnès b. CINEMAで行なわれている小川紳介作品集を皮切りに、11月16日からはChinese Independent Filmmaking Alliance (cifa)と題した各地の小さな映画祭を結んだプロジェクトも行なわれている。香港・マカオ・重慶・台湾・深圳の5カ所の様々なキャンパス、サロンなどで上映。詳細は hkindieff@gmail.com まで。また、2012年1月にもHKIFFの一環としてさらに世界のインディペンデント映画を上映するプロジェクトがスタートする予定。


>>>(左より)翻訳を担当してくれたElbe Lau、LO Chun-Yip、Vincent Chui。
取材時間が午前ということもあり、みんなで香港の食堂で朝食を食べながら様々な映画にまつわる話をした。





「インディペンデント映画とは、商業映画に抵抗するもの」

──まず、お2人は何をされているのか軽く聞かせて下さい。

Vincent: 私はヴィンセントです。“影意志(Ying E Chi)”という組織を運営しています。香港のインディペンデント映画のディストリビューションやプロモーションをしています。そして私も監督です。『影意志』では自分の作品も、他の人の作品も扱っています。


>>>『三條窄路』2008(『Three Narrow Gates』)予告編 監督:崔允信 Vincent Chui

Chun: チュンです。政府からの援助をもらいながら今自分のショートフィルム作品を作っています。それと、ドキュメンタリーフィルムも作っていて、社会問題を扱っています。

──Chunは海外に出品したことはあるの?

Chun: ロシア・台湾・マカオの映画祭に参加しました。

──3カ国での反応、どうでした?

Chun: 上映後ディスカッションがなかったんで、ちょっと反応はわかりませんでしたね。

──なんでないの?

Chun: さあ。ロシアはある意味面白かったですよ。英語字幕があるんですが、映画上映と同時にロシアのスタッフの人がずっと同時進行でしゃべってるんです。ロシア人で英語が理解できる人は少ないということで、ロシア語で生で吹き替えされてました。そのナレーターは幕の後ろにいるんですが、クレジットのときに咳が出たんで、「あ、リアルタイムだ」とわかりました(笑)。

──面白い経験ですね(笑)。香港では普段、アートフィルムやインディペンデント映画、つまりはマイナーな映画が見れる映画館はほとんどないと聞いています。

Vincent: インディペンデント映画とは、商業映画に抵抗するものであり、メインストリームへ抵抗する要素がないと、インディペンデント映画とは言えないと思っています。例えば妥協しないことであったり、内容であったり、商業映画とは違うものでないといけない。今香港にはそういう映画のための基盤がまったくないんです。例えばアメリカにはインディペンデント映画が制作・上映されるシステムがある。そういったアメリカでは、インディペンデント精神を持った映画人が、商業映画に影響を与えることもある。でも香港では、インディペンデント映画と言ってもまったくのアンダーグラウンド、まさに地下のマニアックな作品になってしまっています。
香港は中国大陸とは違って、自分の意見を出す自由がある。インディペンデント映画を作って自由に表現したとしても、香港の一般市民の大多数は、インディペンデント映画というものを認知していない。同じように、Broadway Cinemathequeのような比較的小さめの映画館があるとしても、Broadway Cinemathequeを経営している人たちがインディペンデント映画を意識しているわけじゃない。
なので上映される機会を作ることも、インディペンデント映画自体を作ることも難しい状況です。だから私のような映画製作をするなら、中国のようにまったくのアンダーグラウンドになってしまったほうがいいかもしれません。

「一般の映画会社は「商業価値がない」と思っているから上映しない。」

──インディペンデントとアンダーグラウンドの違いは?

Vincent: 香港ではインディペンデントなものを作ったとしても一般の映画業界にはまったく影響がない。だからやっても仕方がない。つまりは、アンダーグラウンドにとどまるということです。実は自由のない中国大陸でもアンダーグラウンドな映画が作られている。中国大陸では自由が制限されているので、アンダーグラウンド映画からメインストリームへ影響を与えることは絶対に出来ない。香港では自由な映画が作れるのに、どれだけやっても影響力がないから、状況は中国大陸と同じということです。香港のこのような映画は、インディペンデントというより、アンダーグラウンドと捉えたほうがいいかもしれない。

──では香港でインディペンデント映画を作っても、利益を得ることはできない?

Vincent: 今まで何本かインディペンデント映画を作ったけど、まったくビジネスにはなりません。一般の映画会社は「商業価値がない」と思っているから上映しない。まったく映画業界に影響を与えられないんです。

──映画を作る為の経費はどうしてるの?政府からの援助や支援があるなら、機材や映画制作に関わる経費をまかなえるかもしれないけど、政府の援助がない場合はどうしてるの?

Chun: もし政府からの資金がなければ、自費でやるしかないですね。僕は香港城市大学(City University of Hong Kong)のSchool of Creative Mediaを卒業したばかりなのですが、クラスメイトと共同で出資して2万香港ドルぐらいで1本の作品を作ったことがあります。

──Chunは映画を実際にどこで見せましたか?

ifvaにまず出品しました。クラスメイトも出品していました。そこで賞が取れると今後映画制作の機会を与えてもらえることがありますが、賞を取れなかったクラスメイトは、ifvaで賞が取れなかったことにより映画を作ることを断念してしまいました。僕にとってすごく残念なことでした。やっぱり自分が撮った作品を上映する機会はとても少ない。ifvaや他のいくつかの映画祭で上映されることはありますが、通常営業されている映画館で上映する機会はほとんどないです。

※ifvaとは…
香港の若手映像作家の登竜門とも言える、映像祭であり映像コンペティション。
長編から短編、ビデオアート、アニメーションまで様々な作品が香港内外から出品される。香港国際映画祭と連携しており、Hong Kong Arts Centre内のagnès b. CINEMAなど複数の会場で行なわれ、パフォーマンスアートイベントなども行なわれる。
http://www.ifva.com/

──ifvaで賞を獲れると、その後仕事が来たりすることがあると?

Chun: そうですね。私は前回のifvaで賞を取りました。『21 years after』という作品です。

『21 years after』監督:LO Chun-yip
※予告編映像がないので個人的レビュー
高校生の男の子は学校で政治運動のビラを巻き先生に怒られる。彼がコミットしていく政治運動、離れていく恋人、彼の思想に関係なくいつも通りの日々を過ごす家族。1989年天安門事件が記憶にない、香港の若者を等身大で描いている。政治運動に関わる人と政治運動に関わらない人の距離が、この作品にストレートに現れている。



Chun: ifvaで賞を獲った監督にはgreenlabというプロジェクトから映画制作の機会を与えてもらうこともあります。昨年はセブンイレブンがスポンサーとなっているプロジェクトでした。基本的に自由に作りたい短編映画を制作できます。僕は実際にセブンイレブンからの資金提供で映画を作りました。

──なるほど。香港と違って、日本にはたくさん映画館があるけれど、それぞれに充分観客が集まっているとは言えない状況です。日本も日本でやはりインディペンデントな映画は動員が少なかったり。

Vincent: 香港のインディペンデント映画に携わる人たちも、今はまったく別世界となってしまっている商業映画の世界に自分たちの映画を一生懸命売り込んでいます。商業映画をやっている側は、ひとまずは私たちを受け入れてくれるのですが、私たちの独自性を認めてくれるわけではないんです。独自性やインディペンデント精神よりも、結局は、商業映画を一緒に作りましょう、と。
香港全般の教育にも繋がるかもしれません。自分の独特の考え方などを主張させない。だから私たちインディー映画に携わる人たちが率先して自分たちのインディペンデントな考えを主張していかないといけないと思っています。
一例ですが、最近『A Simple Life』という香港映画の主演女優 Deanie Ip(葉德嫻)がベネチア映画祭で最優秀女優賞をもらいました。彼女はもう60代で、素晴らしい演技力を持った俳優です。彼女は、今までずっとメインストリームの俳優ではなかった。彼女はとても個性的で、その個性ゆえに商業映画界から疎外されていました。彼女が今回賞を取り、マスコミはすぐに大きく報道しました。「どのようにすれば60歳になっても成功できるのか?」などと書くのです。彼女の個性や考え方に対してスポットを当てるのではなく、ゴシップ的な報道が多かった。例えばハリウッド俳優のショーン・ペンなんかは強烈な個性で嫌われる存在だったりするけど、アメリカでは自分の意見を言う機会もあるし仕事もある。香港の女性とは違うんですよね。中国大陸では、自分の考えを主張する為にはアンダーグラウンドになってしまうしかない。でも香港はすごく中途半端。自分の意見を出す自由がある割に、意見を出してもまったく影響力がない。

「香港人に共通する社会問題を強調したい」

──それぞれが映画を作っていくなかで、具体的に主張したい意見は?

Chun: 私が作りたい映画は、政治性・社会性の強いものです。香港の人たちは自分自身のことしか考えていない人が多いと思います。社会問題に興味を持たない人が多い。香港人に共通する社会問題を強調したいです。しかし、私は特にインディーか商業映画かこだわっているわけではないんです。ただ自分が映画が好きなので、自分の意見を映画を通して表現したい。それだけです。商業映画を今後やるかどうかはまだ考えていません。今やれることをやっているだけですね。

Vincent: 商業映画にできないものをやりたい。いろいろ方法があるけれど、作品と制作方法を通じて、お客さんに新しい刺激を与えようとしています。

「自分の作品のVCDが15本ぐらい売れたんです。
私はそれだけですごく嬉しい。」


──自分たちの主張をしていくなかで、一番辛いとき、挫折を感じるときはどんなときですか?

Chun: あまり挫折感はないですね。

Vincent: 香港人はみんなが苦しいですからね。朝から晩まで忙しく仕事して、頑張って仕事しても狭い部屋に住まなければならなかったり。生活自体にみんな挫折しているかもしれない。でも私は自分に正直な選択をしたわけだから、辛さはあまり感じません。
それが商業映画との大きな違いだと思います。私はこの前大学で講演して、そこで自分の作品のVCDなどを売ったんですが、15本ぐらい売れたんです。私はそれだけですごく嬉しい。でもこれが例えば商業映画の営業マンだったら「たった15本しか売れなかった!お金に繋がらない!」と嘆く。
私はそういった些細なことで満足していますが、商業映画をやっている人にしたら、私の小さな満足感は想像できないものでしょう。小さなことで喜べることは幸せです。
あと私は2008年に商業映画を作ったことがあります。香港国際映画祭で上映されました。『Love is Elsewhere』という作品です。それは普通の映画館でも2週間ぐらい上映されました。上映されるとき、すごく緊張してはいたんですが、商業映画を作ったという単なる仕事にしかならず、やっぱりインディペンデント映画が自分の本当の仕事だと思いました。商業映画を作って、上映期間が終わればそれで終わり。何も残りませんでした。

Chun: 僕は自分がラッキーだと思っています。まだ学校を出たばかりだけど、作品を上映するチャンスに恵まれてきました。先ほども言いましたが、クラスメイトは賞が取れないことで映画を作るための熱意を失ってしまう。

──なんだかネガティブなことばかり聞いてしまいましたが…

Chun: でも僕たちの答えはすごくポジティブだと思っていますよ(笑)。

──確かにそうですね(笑)。もし日本人が香港に行くときに、香港の映画人として、オススメしたいイベントや場所はありますか?

「香港人が香港政府からもらった資金を使って大陸の映画を作るということ、今これは非常にセンシティブなトピックです」

Vincent: 僕たちのオフィスが一番面白いかな(笑)。冗談ですけど。

Chun: 僕はHong Kong Film Archiveはオススメですね。

Hong Kong Film Archiveとは…
その名の通り、香港の映画にまつわる資料が集まったリソースセンター。映画の上映プログラムも随時企画されており、古い良質な香港映画に出会える場所。図書室・視聴ブースも設けられており、もちろん海外からの旅行者でも訪問することができる。


Vincent: オススメできる場所をあげるとすれば、映画館Broadway Cinemathequeや別の小さなフェスティバルなどで僕らのようなインディペンデント映画の上映の機会があったりします。香港のインディペンデント映画の状況は厳しいですが、根本の問題は、映画業界が完全にコマーシャライズされているということです。お客さんがインディペンデント映画にまったく興味を持っていないし、そういった映画の独特な価値を認めることができていない。あと、香港が返還されて以来、論議があるとしても、みんな映画に対する真面目なディスカッションをしない傾向にあります。
HKADC(Hong Kong Arts Development Council - 香港藝術發展局)という政府の機関があり、映画製作に資金を出してくれることがあります。例えば、大陸の人権や自由に触れるアンダーグラウンド映画を香港人がHKADCから資金を受けて作ろうとする。でもそもそも中国大陸内では公にはそんなものを作ってはいけない。香港政府はHKADCが大陸を批判する映画を支援することを当然好みません。大陸ではアンダーグラウンド映画は違法です。香港人が香港政府からもらった資金を使って大陸の映画を作るということ、今これは非常にセンシティブなトピックです。複雑な問題があります。香港は一国両性という状況があって、外国の人には理解しにくい社会状況ではないかと思いますね。



香港にて2011年9月18日取材。

Cantonese-Japanese Translator : Elbe Lau
Interviewed and text by : 山本佳奈子(Kanako Yamamoto)
Interview coordination : Choi Ka-yee