「家」「都市」をテーマに創作活動を続けるKacey Wongの作品と、彼が起こした艾未未へのプロジェクトについて。

...Sorry, this article is only Japanese.

>>>Kacey Wong 香港の彼のスタジオにて。ここはスタジオのロフトのリラックススペース。「僕はリラックススペースでリラックスすることなんてほとんどないんだよね。でも、アーティストってみんなこういう場所を自分のスタジオに作るでしょ?なんだかそれっぽいなと思って作ってみたんだ(笑)。」と言うKaceyは、彼自身について、艾未未について、ユーモアたっぷりに話してくれた。



香港で「家」と「都市」をテーマにアートを制作するKacey Wong。元々は建築に携わっていて、香港理工大学で講師を務めながらアート作品をどんどんと生み出す彼も、以前紹介したGraphicairlinesと同様、香港クリエイティブシーンの有名人だ。彼とアポイントメントを取り、彼の伝えてくれた住所まで、湾仔 -Wan Chai-からタクシーに乗る。たった20分ぐらいで、彼のスタジオがある鴨脷洲 -Ap Lei Chau-、香港島の南側に到達した。その日は天気が素晴らしく良く、見える海や少し静かな街並に、短い取材旅行ながらもやっと旅の感覚を思い出した。

>>>車窓から見えた景色。これがちょうど湾仔と鴨脷洲の中間あたりだっただろうか。

■「香港の不動産問題って、ネガティブじゃなくてポジティブにもできるんじゃないかと思った。」

まずは、私が一番気に入っている彼の作品の映像を見てもらいたい。
Paddling Home(漂流家室)2009 / Kacey Wong


彼のスタジオでこのビデオを見せてもらい、思わず笑った。たった1平米ほどの小屋が香港のビクトリア・ハーバーに浮かぶ。これは、ミニマムな「家」であり、彼のアート作品だ。

「香港では不動産に関する問題が大きくなっている。日本でも問題になってるかもしれないけど、部屋を借りようとか家を借りようとしてもすごく狭かったり、狭い場所に閉じ込められてる感覚。高い家賃を払うために必死で働かなければならないし、場合によってはやりたくないけど収入の良い仕事に転職しないといけなかったり。給料が上がらないのに家賃は上昇して、大人になっても両親を経済的に助ける事ができず、それは家族の問題にもなってくるんだ。
でも香港の不動産問題って、ネガティブじゃなくてポジティブにもできるんじゃないかと思った。すごく小さな場所しか無いけどフリーダム。これなら何にも縛られず、ものすごく狭いんだけど究極の自分の空間が得られるっていうのを表現した。このたった1平米の家に旗を立てて、『これが僕の家だ!これが僕の城だ!』って(笑)。
それでこのビデオは、このPaddling Homeを実際にビクトリア・ハーバーに浮かべる儀式をパフォーマンスとして公開したときの映像。それまでにテストできなかったからとっても怖かったんだ!沈むんじゃないの?って。それに波があるから怖い!バカっぽくて面白いでしょ?わざわざ海兵隊のキャプテンのユニフォームまで着てね。この時のパフォーマンスではここでゴルフしたり釣りをしたり。ラグジュアリーだったよ(笑)。」



Famiglia Grande(顯赫家族) 2009 / Kacey Wong

「これも僕の作品、『Famiglia Grande』(グランド・ファミリー)。このトランク一つが寝床になるからどこでも生活できる。登場人物はゴージャスなドレスで着飾ってるんだ。2008年のリーマンショックで、ある人はたった一日でお金を無くし、どん底に落ちた。その人たちが何か失敗をしたということではなくて、僕たちの生きる社会の構造が問題だったんだよね。もし、明日、お金が一銭もなくなってしまったとしたら、どうやって自分たちの暮らしを今まで通りに見せるか。逆に言えば、ホームレスでもこんなにクールにふるまえるんじゃないかっていう提案だね。」

■「実は、香港のホームレスの一部って働いてる。」

>>>日本の震災、福島原発の爆発の後に制作されたという作品。これも同じように持ち運びできる「家」でありながら、ソーラー発電機能も備えている!http://www.kaceywong.com/wander.html

「実は、香港のホームレスの一部って働いてる。これについては、自分が実際にホームレスの人たちのもとを訪れてインタビューするまで僕も知らなかった。一部の人たちは、家賃を払うことができないからストリートに住んでるんだよね。それに水道代や家から職場までの交通費とかもバカにならないから、コストセーブするためにホームレスやってるんだ。例えば日本で、ホームレスのシェルターを見れば多くの人が醜いと思うだろう?「ここは公共の場所だから景観が悪くなる!」って。じゃあ、ホームレスのシェルターをかっこよく作ったらどうだろう?かっこいいものや美しいものがホームレスのシェルターになれば、それはパブリックアートになるんじゃないか?そうすれば、公共の場所がこのアートで埋め尽くされても問題ないよね?それが僕の考えだした答えなんだよ!」

>>>Tin Man No. 11 大鐵人11號 (2008) Kacey Wong / photo from his website


「僕の作品は家と都市に根付いてる。
ホームレスでも快適に生きていける方法があるだろうし、僕はあらゆる自由について考えてる。自由な生活、自由な家、自由な場所で生活する事。最初はこのプロジェクトは自分の為に考えてたんだ。最小のスペースで本を読める、狭くても自由なスペース。ミニマムな場所。構想していくうちに、これがホームレス問題に繋がるんだと気づいたんだよ。」


■香港のアーティストネットワーク“Art Citizens”について

そんな彼は、今香港で結成されたArt Citizensというネットワークの中心人物でもある。Art Citizensと言えば、艾未未が2011年3月に拘束されたときに多様な運動を展開したグループ。彼に、ArtCitizenの成り立ちやプロジェクトについても紹介してもらった。

藝術公民 Art Citizens facebook page


実は、彼は艾未未の作品を今まで好きだと思ったことはなかったと言う。デザイニングされた彼の作品に今まで魅力を感じなかったという。けれど、艾未未の拘束をきっかけに、艾未未と自分とが重なり、他人事と思えなくなったと言う。
「3月、艾未未は拘束された。僕も新聞やニュースで見て、ショックを受けたよ。建築やデザインやアートをやっていて世界で有名な艾未未が逮捕された。あれだけ有名な人でも逮捕されるんだ。自分に、一体何が出来るだろう?なにもできない!と思った。妻に『艾未未が逮捕された!』と言うと、特に驚くでも無く、『そうか。』とだけ(笑)。なぜかっていうと、中国では毎日のように誰かが逮捕されてる。弁護士が逮捕されたり、人権活動家が逮捕されたり。彼が最初じゃないし驚くことじゃないかもしれない。ニュースを読んだ後すごく嫌な気持ちがした。彼は建築がベースにあるアーティスト。僕も建築をやってきた。なんだか人ごとじゃなくて、どうにかしなければいけないんじゃないか、と。でも何が出来るんだろう?」
これは香港が関わる問題であり自分の問題だと認識し、艾未未の解放を求める運動に積極的に参加するようになったと言う。

「僕はこれまでこういった政治関連のデモに参加したことはなかったんだ。これが初めてのデモへの参加だった。同じデモに、いつもデモ運動に参加している政治運動家たちも参加していて、彼らはすごく慣れていたし激しかったから、僕は少し怖かった(笑)。そして僕はこのプラカードを作って歩いたんだ。」

Yesterday is him.
Today is me.
Tomorrow is you.

>>>from Art Citizens's facebook album

「もし、声をあげなかったら…。昨日は艾未未に事が起こった。今日の艾未未は僕かもしれない。明日の艾未未はあなたかもしれない。そんな意味がある。香港はまだ自由。でも、常に圧力がかかっていて、いつ自分たちの自由が奪われるかわからない状態。北京から圧力がかかるんじゃない。プレッシャーは内部から来ている。政治家や警察の一部には大陸政府のお墨付きもいる。そういった人たちは、何が正義かを忘れている。それがナショナリズムと勘違いされてる。だから、いつでも香港から自由が失われる可能性はあるんだ。」

>>>2011年4月23日に行なわれたArt Citizensのパレード。

■「僕たちのデモを見ていた中国大陸からの旅行者にインタビューをすると、みんな顔を隠したがる。」

「初めて僕やアーティストたちが集まってデモをした後、初めてのミーティングが行なわれて、Art Citizensが誕生した。アーティスト達が集まったネットワークでコネクション。パフォーマンスアーティストも、シンガーもライターもヴィジュアルアーティストも、いろんな分野のクリエイターがいる。知ってると思うけど、そういう創作活動をする人たちって言うのは常にインディヴィジュアル。みんなそれぞれ個性を持っているから一つの事にみんなが賛同するなんて滅多にないんだ。だから僕らにとってこれは驚くべき事象だった。香港のクリエイター達が一つの目的に向かって集まるなんて。
あの当時は誰も艾未未がすぐに解放されるなんて思ってなかった。解放されるとしたら数年後か、もしくは永遠に解放されないか、いつか消されてしまうか…。彼は本当にラッキーだ。たった60日間の拘束で済んだんだ。さらに驚くべき事に、こういったデモに参加すると、シークレットポリスが参加者の写真を撮ってるんだよね。誰が参加していたか、ちゃんと記録されてる。また、こんな話もあったよ。僕たちのデモを見ていた中国大陸からの旅行者にインタビューをすると、みんな顔を隠したがる。『どこから来ましたか?大陸?香港?』と聞くと、『そうそう!香港です』と。大陸の人たちは、発言できないんだ。」


>>>photo from Art Citizens's facebook album
Art Citizensがキュレーターとなって開催された展覧会『愛未來藝術及詩作展 -Love the Future-』。2011年5月26日より1ヶ月間開催された。
イントロダクションの一部を訳すと、こうある。
ある人物がいなくなった。今回はアーティストだ。その事件は遠い地のことで、無視することはたやすく、他の中国人の消失や排除を受け入れることと同じように容易だ。しかし、私たちはこれを無視できるだろうか?
〜中略〜
艾未未は彼自身の本でこう書いている。『全ての人々は、他人の為に何か行動しないといけないと私は思っている。それだけが、この世界を変えることができる方法だろう。』このエキシビションは『他人の為に何か行動を起こす』という彼の心に捧ぐ。そしてこのエキシビションは、人の権利を獲得すること、正義の為の戦いに向かって、前進する力となる。
■「たった1人の国際的芸術家を助ける為に、多くの壮絶な努力が必要なんだ。」

「今回の艾未未の拘束では、世界中でデモンストレーションが起こった。たくさんの雨粒が集まって、落ちて、やっと艾未未の解放に繋がった。艾未未解放のニュースを聞いた時すごく嬉しかった。でも同時にまだ悲しさもある。なぜなら、彼のように有名ではない自由を訴えた人たちが、まだ多く拘束されてる。たった1人の国際的芸術家を助ける為に、多くの壮絶な努力が必要なんだ。」

>>>これがKaceyのスタジオ。開放感があり、ベランダからは海が一望できる。


彼は、艾未未が拘束されたときも、香港の不動産問題に関しても、アートの“マーケット化”に対しても、憤りを表す。しかし、彼はその怒りをそのまま表明するのでなく、一度アートという彼のフィルターに通してから私たちにその問題を考えさせてくれる。

最後に、彼の最新の作品を。何にも縛られない夢の中は唯一の自由な時間・場所なのではないか?そう考えた彼の最新作。

Sleepwalker 夢遊號 (2011) Kacey Wong



Kacey Wong website
http://www.kaceywong.com/



interviewed and text by 山本佳奈子 (Kanako Yamamoto)