【CREATORS FILE】マレーシアのサウンドアーティスト Goh Lee Kwang インタビュー

■私はアジア人なので、アジアのアイデンティティからなるリズムを模索しています。

マレーシアのサウンドアーティスト、Goh Lee Kwang。
彼の最新作『反之亦然(Fan Zi Yi Ran)』(英題:_, and Vice Versa)。ここに詰め込まれた音は、それぞれが生きているように自由な動きを見せる。音から映像を浮かべるような、そこに何かのストーリーがあるような、不思議な作品だ。




ある日偶然に彼のBandcampページにたどりつき、彼には近々会いにいかなければならないと思った。その後、シンガポールでサウンド・パフォーマンスアーティストとして活動するYuzuru Maedaさんのご紹介もあり、今回のクアラルンプール滞在中に、彼がいったいどういったアーティストなのか、直接インタビューさせていただける運びとなった。クアラルンプールのセントラル・マーケットに位置するAnnexe Galleryのディレクターも務める彼は、現在のマレーシアアートシーンを牽引する。多様な展覧会・イベントを行うAnnexe Galleryにもぜひ足を運んでいただきたい。


Goh Lee Kwang
マレーシア・クアラルンプールを拠点に活動するサウンド&ニューメディアアーティスト。舞台や演劇での音楽制作、レーベルオーナーとしてインディーズ音楽のリリース、イベントオーガナイズなども手がける。
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■PCはすぐクラッシュしてしまうところがいいんです。私の音の一部はクラッシュから生まれたりするんですよ(笑)。

──いつから一人で音を制作しているんですか?

今まで2つバンドをやっていたこともあるんだけど、あまり自分たちの思うようにいかなかった。1999年頃からソロでの活動を始めました。

──何かきっかけがあったんでしょうか?

特別な理由があるわけではありません。自分が興味のあること、そして自分にできる最大限のことをやりたかった。ただそれだけです。自分が本当に何をやりたいのか、アーティストとして何ができるのか、その都度自答しながら広げていっているだけですね。

──自主で音楽レーベルもされているとのことですが、普段はどんな音楽を聴くことが好きですか?

今はジャンルにこだわらず、すべての音楽を聴きます。すべてと言っても、ポップミュージックと反対側にある音楽ですね。

──私も同じです。海外に行ってパフォーマンスことは多いですか?

それほど多くはないですが、数年間ヨーロッパに滞在していたこともありました。でもここ最近はずっとクアラルンプールを拠点としています。昨年行ったのはジャカルタ、シンガポールぐらいですね。サウンドインスタレーションやコンサートで行きました。

──ヨーロッパではどこに滞在していたんですか?

いろんな地域を渡り歩いてました。ドイツ、オーストリア、イギリス、フランスなど。いろんな地域でパフォーマンスもしていました。最後は2010年、ワンマンツアーとしてヨーロッパをまわりましたよ。次は来年ぐらいに行けたらいいなと思ってます。

──日本へ来ることは考えてますか?

今のところ、日本へのパイプがないですね。実は日本へはまだ行ったことがないので、いつか日本でパフォーマンスできればと願っています。昨年は、内橋和久さんがこのAnnexe Galleryに来てくださいました。私がコンサートをオーガナイズして、ローカルアーティストとのミーティングの機会をセッティングしました。内橋さんもアジアのローカルのアーティスト達のことが知りたいとのことで。そのときも内橋さんはタイ、シンガポール、インドネシアと、様々な国をまわっておられましたね。

>>>Annexe Gallery ロフトより撮影

>>>Annexe Gallery エントランスから繋がる空間。同じ広さの空間がもうひとつ、隣に並ぶ。

──この新しいCDのコンセプトを聞かせてください。

とてもシンプルです。エレクトロミュージックというものはほとんどがコンピュータから音が鳴ります。ときにはすべての音がコンピュータで作られていることもあります。私もコンピュータから音を生成しているのですが、なんというのでしょう。このCDに関しては、コンピュータの許容に挑戦しているというか。コンピュータと交渉していった過程を記録したようなCDですね。私はこんな音が作りたい、でもコンピュータはここまでしかできないと言う。そしてときにはコンピュータがクラッシュする。どういう風にコンピュータと会話していくかを実験した音源です。

──コンピュータは何を使用しているんですか?

私はPCです。最初はwindows PCからコンピュータを触り始めましたし、持っているソフトウェアがほとんどPC用です。そして、PCはすぐクラッシュしてしまうところがいいんです。私の音の一部はクラッシュから生まれたりするんですよ(笑)。

──ソフトウェアは何を使用していますか?

一般のDTM用ソフトなどは使用していません。本当にわずかな瞬間の音、例えば2秒ぐらいの音をダイレクトにPC内に録音し、それをループさせて繋ぎ合わせたりして作っています。

──BandcampでいくつかLee Kwangの音源を聴きましたが、ほとんどビートがないですよね。なぜビートがないサウンドを作ろうと?

そうですね。ビートはないです。
ただ、このアルバムは先ほど言いましたように、たくさんのループから作られています。ループがあるということは、そこにリズムが存在することになります。一定の間隔でループを作り上げると、そこに、1、2、3、4、というような等間隔のリズムができます。私はそれをあえて壊して、一定のビートが生成されないようにしています。あるとき気づいたんですが、通常私たちが言う「リズム」というものは、ヨーロッパのリズムです。アジアのリズムって一体なんだろうと考えたことがあります。私はアジア人なので、アジアのアイデンティティからなるリズムを模索しています。アジアの古いトラディショナルな音を聴くと、今のヨーロッパ音楽とは違うリズムが存在します。アジアの古来のリズムとは、お祈りやマントラなどの唄から来ている気がするんです。

──なるほど。興味深いです。私もそういったことを考えて日本の古来の音源を探したことがありますね。では、マレーシアであなたのCDを買いたいとすれば、どこで買うことができますか?

マレーシア国内にはCDショップは数少ないですし、私のCDは流通させていないので、直接私にコンタクトを取ってもらうのが一番ですね。ヨーロッパではフランスのレーベルにディストリビューションしてもらっています。他の地域からは、ネット上で購入してもらうのがベストです。

──Lee KwangはBandcampを使ってますが、日本ではまだまだBandcampを使用している人は少ないんですよ。

そうなんですか。マレーシアでもまだまだポピュラーではないです。私もたった半年ぐらい前に始めたばかりで、始めた理由は、ネット上で音源を購入してもらうというシステムが出来ている、ということに限りますね。ただ、やはりCDのほうが音のクオリティは良いんじゃないかと思ってます。

──Bandcampで音源を購入する人は多いですか?

たくさんの人が買ってくれて驚いています。ただ、やはりツアーやコンサートを行ったあとにCDを買ってくれる人は多いので、インターネット上ではプロモーションになりますが、リアルな場所には勝てないと思っています。

──普段別の仕事はしているんですか?

以前はフルタイムの仕事もしていたのですが、昨年の4月からはここAnnexe Galleryの運営を主な仕事としています。あとはレーベルを運営していたり、イベントのオーガナイズなどですね。

──このAnnexe Galleryは、サウンドアート以外のエキシビジョンも行なわれるんですか?ペインティングやドローイングなど、サウンドや映像を用いていない展示も行うのでしょうか?

もちろんやりますよ。2週間前にはドイツのアーティストのドローイングの展示が終わったところです。先週にはタンゴのワークショップもやってました。アートのどの分野にも対応しています。ここで私の友人の海外アーティストのパフォーマンスを、私がオーガナイズすることも多いので、私も一緒に出演したりします。

──いつかLee Kwangのパフォーマンスが日本で見られることを願っています。

そうですね。実現したいです。決して難しいことではありませんから。




音ひとつひとつが人間のように自由な表情を見せ動いていく。私が何か漠然と感じていた、そういった有機的な要素は、彼が常にコンピュータと対話しながら制作をしていること、アジア人であるというアイデンティティを日常から意識していること、そして、あのマレーシアの多様な人が住む環境が起因していたのではないだろうか。帰国後、彼の音を再度聴くと、喧噪のクアラルンプールの情景をしっかりと思い出せた。


2012年3月13日 Annexe Galleryにてインタビュー


text&intereview : 山本佳奈子