“あの頃の北京を描くように音楽を作っています” me:moインタビュー

インタビューを敢行した日は2012年8月31日。8月31日までの1週間、少なくとも私が歩いた北京の一部の街はおだやかで、反日デモを見ることも反日の空気を感じることもなかった。me:moとあらかじめ連絡を取っていた。彼が指定した待ち合わせ場所は雍和宮(Lama Temple)に近い国子監街にあるカフェ。同時に到着した私たちは挨拶を交わす。ストイックなサウンドから勝手に私が想像していた人物像とは少し違い、チャーミングで明朗な人だった。彼のサウンドから垣間見えるノスタルジアは、昔の北京の風景にあるという。たった1時間のインタビューだったが、初対面ながらもお互いに少し理解できたと思っている。そのインタビュー直後、上海へ向かう電車に乗らなければいけなかった私をme:moは地下鉄の駅改札口まで送ってくれた。北京にいるときは辛かった空気の悪さや埃。北京を去るとき、不思議にも、その苦痛から解放されることが寂しくなった。
あれから約1ヶ月。中国では多くの中国人が愛用していた日本製炊飯器を破壊し、日本では多くの日本人がチャイナ・フォビア(私はここでは「チャイナ・フォビア」を「無条件に中国に対して嫌悪感を抱くこと」と定義する。)になりつつある。
me:moのインタビューは、このwebではフルサイズではなく短く編集し、後に発行する紙のzineにてフルサイズで発表する予定にしていた。だが、今日の一般人ベースでの日中関係を考慮して、me:moに対する質問と彼の答えを全て掲載する。個性は国籍の上に存在するのではない。少しでも多くの人に、中国の今を生きるアーティストのことを知っていただければ、中華圏のアーティストに助けられてきた私として、これほどうれしいことはない。

me:mo 北京・国子監街にて。
北京出身・在住の電子音楽アーティスト。インディペンデントレーベル『fRUITYSHOP』主宰。2007年『Acoustic View』、2010年に『Peking Scene』をリリース。日本でもp*disや多数のショップで取り扱われる。2010年に PROGRESSIVE FOrM主催イベントに招かれ初来日。2012年5月には、日本のレーベルflauの中国ツアーをオーガナイズ。
こちらで試聴できます。→http://site.douban.com/zhairuixin/






──音楽を作り始めたきっかけは?

2003年頃、Soraという日本のアーティストの音楽を聴き、衝撃を受けたのがきっかけです。Soraに影響を受けて、音楽制作を始めました。

──その前はバンドをやっていたりとか?

ないですね。2003年まではオーディエンスでした。

──楽器は演奏しますか?

ギターを少し。でも下手です(笑)。
*通訳を担当してくれたEdoardoがすかさず「いや、彼のギターはとっても良いんだよ」と挟む。

──じゃあもう9年ぐらい音楽制作をしているということですね。

そうですね、2003年からやっていますが、2006年頃から今のスタイルで本格的にやっています。

──ちなみに今おいくつですか?

32歳です。

──音楽を学校やスクールで勉強しましたか?

いいえ。中国のミュージシャンは一般的に学校で音楽を習わないですね。みんな独学です。芸術学校や音楽学校はありますが、私にとってはどれも魅力的ではないです。伝統芸術を教えるところで、コンテンポラリーな芸術はできません。コンサバティブな学校ですね。

──音楽制作の環境を教えてください。

Macで、ReasonやCubaseを使います。音源は、自分で録音したサンプルを用います。ソフト音源や実際のドラムの音などは使いません。フィールドレコーディングもしょっちゅうしてますね。『Peking Scene』では自転車に乗って家に帰るまで、カットせずに録音。その音を使いました。

──だから『Peking Scene』と名付けられたんですね。2010年に来日し東京でライブされたとのことですが、東京でのライブはどうでした?

特に北京でやるのと変わらなかったですね。お客さんは90人に満たないぐらいでした。ほとんどがリスナーではなく、ミュージシャンたちだったと思います。

──日本ではそういう状況が多いですね。ライブをやって、来ているのはだいたいそのミュージシャンの友人のミュージシャンだったり。

私が演奏したのは確か週末でしたが、東京では毎日いろんなところで電子音楽のイベントをやっていますしね。北京では多くても同じ日に行なわれる電子音楽のイベントは2つぐらいです。日本では様々なジャンルが、それぞれたくさんの人に聞かれています。その点で北京と東京は違うと思います。

──1年に何回ぐらいライブを行ないますか?

だいたい年に10回ぐらいですね。fRUITYSHOPでは月1回イベントを行なうようにしています。

──fRUITYSHOPのサイトも拝見しています。fRUITYSHOPとは一体どういったプロジェクトなのでしょう?

私が運営しているレーベルです。2003年、私は最初、自分の音源をCDRのデモとして作ったんですが、自分の音源を売るにはレーベルが必要だと思い、レーベルをたちあげました。それがfRUITYSHOPです。でも、2003年から今まで、自分の音源とchocorangeの音源、たった2枚しかリリースしてません(笑)。もっとリリースしたいとは思っていますが、実際、近くにこういったジャンルの音をやってる人が少ないですね。
あと、fRUITYSHOPでは2008年からインターネットラジオもやっています。オールディーズの音源ばかりかけていた時期がありました。将来的には、fRUITYSHOPはレーベルとしてだけでなく、プラットフォームとして機能させていきたいと思っています。レーベル、イベントのオーガナイズ、インターネットラジオなど、様々な音楽に関わる活動をしたいと思っています。
fRUITYSHOP http://blog.fruityshop.cn/
※サイトにアクセスすればインターネットラジオが自動的に流れます。

──fRUITYSHOPのインターネットラジオで話しているのはme:moさんなんでしょうか?

そうです。私と友人と、2人で話しています。内容は、とにかくいろんな音楽を紹介していますね。あと、たまにくだらない話も。

──何人ぐらいがこのインターネットラジオを聴いているか把握してますか?

1ヶ月5000人ぐらいが聞いてくれているようです。当初は、1ヶ月でたった10人のリスナーしかいませんでした。でも、昨年、上海の映画で私たちのインターネットラジオ『My Spritual Medicine Radio』が取り上げられたことから、多くの人が聞いてくれるようになりました。『My Spiritual Medicine』という同名の映画で、上海の監督は私たちのインターネットラジオをネタ元に映画を作りました。ただ、この映画はあくまでも劇映画なんです。事実とこの映画の中身は違います。主人公は2人の男性で、オールディーズなど良い音楽を紹介するインターネットラジオ番組のディスクジョッキーたちという設定。これは一緒なんですが、映画では、このディスクジョッキーの男性2人はゲイという設定になっています。映画を見て、私たちのラジオ『My Spiritual Medicine』に辿り着いた多くの人たちは、私たちがゲイだと思っているわけですよ!私たちはゲイではないんですけど…、面白いですよね。まあ、別に気にしてないですけど(笑)。

参考記事:My Spiritual Medicine - Books & Film - Time Out - Shanghai http://www.timeoutshanghai.com/features/Books__Film-Film_features/5870/My-Spiritual-Medicine.html
※記事最下部、youku(中国版youtube)より映画の全編を見ていただけます。


──中国大陸にいながら、音源をリリースするということは大変ですか?

さほど大変だとは感じません。CDRで販売することはもちろん簡単です。検閲も関係のないアンダーグラウンドですから。中国大陸内で流通に乗せるということは一度政府がチェックするということなので、諸々の手続きを踏まないといけません。ただ、その手続きを経るとCDパッケージに挿入しないといけないロゴとかがあるんですが、それがかっこ悪くて元のジャケットデザインを台無しにしたりしますね(笑)。

──ライブの話を聞かせてください。me:moが出演するイベントはだいたい何人ぐらいお客さんが来ますか?

だいたい50人ぐらいですね。多くはないですよ。北京ではこういった音楽を聴く人は少ないですし。でも年々こういった音楽を聴く人は増えて来ているような気がします。
北京では今、若い人に「電子音楽ってどんなの?」って聞けば、みんなダンスミュージックをイメージしています。私のやっているような、アンビエントにカテゴライズされるような音楽は、それ自体がまだまだ知られていません。

──でも、例えば、ノイズミュージックなどは少し人気ありますし、アーティストも多いですよね?

確かにそうかもしれませんね。ただ私が思うに中国のノイズアーティストで良いアーティストとダメなアーティストは半々です。半分は、ただのノイズ=雑音を鳴らしてるだけですから。

──中国でアンビエントが聴かれない理由は何だと思いますか?

中国は今すごいスピードで発展しています。人々は時間がありません。香港の状況に似てきたかもしれません。良い仕事に就いて、お金をたくさん儲けることを常に考えている。そんな状況のなかで、人はゆっくり時間をとって、良い音楽、しかもこういったゆったりした音楽を聴こうとは思わないんじゃないかと思います。でも、アンビエントを聴く人がいないというわけではないです。年々増えていっているとは思います。

──では、こういったアンビエントを聴く少ない客層は、だいたいいくつぐらいでしょうか?

だいたい30代ですね。私の周りの友人が必然的に多いので。でも最近は私の周りも結婚して子供ができたりして、ライブなどからは卒業している友人も多い。

──ヨーロッパには行ったことありますか?

1回だけ、ノルウェーでライブをしたことがあります。

──これからどこか海外で演奏する予定はありますか?

ないですね。

──me:moの音楽はヨーロッパで受け入れられるんじゃないかと思うんですが、今までヨーロッパのレーベルなどから声がかかったことは?

ないです。ヨーロッパにはたくさん良いアーティストがいます。私なんて足下にも及ばないでしょう。電子音楽はドイツと日本が世界で一番だと思っています。北京からは、日本の方が近いですから、日本のレーベルplopでリリースもしましたし、日本のレーベルやアーティストと良い関係を築いていくほうが自分にとって良いと思っています。それにplopはヨーロッパとも繋がっていますから、特に自分からヨーロッパへ営業していこうとは考えていません。まあ、どこの国にしても、こういったタイプの音楽は少数の人に好かれるニッチな音楽です。オーディンエスからしても世界のどこで活動しているかなんてあまり関係ないと思うんですね。小さい世界ですから。すぐに世界中と繋がってしまいます。

逆に、あなたは日本の電子音楽についてどう思いますか?

──最近は、電子音楽がポップに、ポピュラーミュージックのようになってしまった気がします。5年ぐらい前までは、Yoshihiro HannoやAOKI Takamasaの音楽を聴くのは大好きでした。今の日本は、女性ボーカル+かわいい電子音楽、という方程式が多すぎる。そういったかわいい電子音楽に私はあまり惹かれません。今流行りの電子音楽には満足していません。そもそもCDも売れないし、私の住む大阪ではクラブも取り締まられるし、環境も大きく変わりましたよね。

世界じゅうどこに行っても同じですね。CDが売れないから、ミュージシャン達はよりポップになろうとする。若い人にウケるように狙って作る。中国のバンドはよくそういう日本のカワイイ電子音楽をコピーしていると思います。では、中国のロックバンドで好きなバンドはいますか?

──明後日、上海でRe-TROSのライブを見ます。Re-TROSは大好きですね。昨日は刺猬(Hedgehog)に会いました。
Re-TROS刺猬とも、北京を中心に活動するロックバンド。

どちらのバンドも中国ではとても有名です。インディーロックって若い子のあいだですごく人気ありますから。

──中国のロックシーンについてはどう思いますか?

まあまあ。

──ロックに興味はない?

そんなことはないです。ただ、コピーにとどまってしまい、個性のあるバンドが少ない。私もロックで気に入ってるバンドは少しいるんですが、めちゃくちゃアングラなうえに、一瞬で解散してしまうバンドが多い。挙げるとすれば、Dou Weiとはかかっこ良いですよ。90年代彼はロックスターでした。

──えっと、Dou Weiって、中国語でどう書くんですか?

え?どう書くんだっけ?かなり難しい漢字で…(笑)。90年代はバンドでポピュラーなロックをやってました。フェイ・ウォンと結婚してたこともあります。離婚しましたが。インストで、エクスペリメンタルなことをやってます。Dou Wei(竇唯)はすごく良いですね。オーディエンスのことなんて気にしない。自分のやりたい音楽を作ってリリースしてリリースして、リリースして、それを続けていて、素晴らしいと思います。現在彼は45歳ぐらいです。
※“竇唯”でGoogle検索していただくと、いくつかアンオフィシャルな動画が見つかるので、気になる方はぜひチェックしてみてください。ここ数年の作品がme:moが言うようにエクスペリメンタル音楽です。

──音楽で好きなジャンル、好きなアーティストはいますか?

電子音楽、ソウル、ジャズ、ブルース……、どんな音楽も聴きますし、好きなアーティストもたくさんいて、絞れません!

──今現在仕事は?

フリーでいろいろやってます。

──普段、趣味とか生活の中で、どんなことをしてますか?

うーん、特になにもしてないですね。働いて、働いてないときは休んで。ヒマだったらちょっとスポーツしたり。あ、あともちろん音楽も作ります(笑)。ちなみに、今度10月に日本とマレーシアからアーティストを呼んでイベントを行なう予定です。mü-nestというマレーシアの電子音楽レーベルに所属するマレーシアのアーティストflicaと、同レーベルからリリースした日本のアーティストokamotonoriakiなどを呼びます。2組とも、とても良い音楽なので、楽しみですね。

mü-nest night
2012/10/28(sun) 21:00-23:30
地点: 北京 东城区 北京市东城区旧鼓楼大街豆腐池胡同23号 杂家(Zajia)
http://www.douban.com/event/17316138/
Live:
flica (Malaysia) (indietronica)
okamotonoriaki (Japan) (indietronica)
me:mo (China) (folktronica)
Layer (Italy) (ambient)
DJ:wei (Malaysia)
──最後に。あなたの音楽制作に影響を与えているものは何ですか?

北京での生活です。私は、自分が小さかった頃の北京を覚えています。当時はこんなに現代的な都市ではなかった。あの頃の北京を描くように音楽を作っています。

──あなたが小さかった頃の北京と今の北京、何が違いますか?

生活すべてが違うと言えます。このような古い家がどんどんなくなっていっていること。(インタビューを行なったカフェの周りには古い家屋が残っている。)あと、人々の物事に関する感じ方がまったく違うと思います。小さい頃は、もっと静かで、落ち着いた暮らしをしていたように思います。今より貧乏な暮らしでしたが、人々はもっと温かく、良識をもって、誠実な暮らしをしていたと思います。昔は、人同士の関係は平和でした。今は、それぞれ、他人は敵だと思うようになっているんじゃないでしょうか。人々の生活環境が大きく変わりました。

──なるほど。me:moの音楽を聴いたとき、なぜかノスタルジーを感じた。その理由がやっとわかりました。ありがとうございました!



インタビュー・構成:山本佳奈子
通訳補助:Edoardo