シンガポールUjikajiのMark WongによるThe Observatory新作コメント対訳


シンガポールUjikaji Recordsのマネージャーで、The Observatoryの盟友、Mark WongによるTHE OBSERVATORY新譜『OSCILLA』に向けたコメント全文和訳。
The Observatory新作『OSCILLA』についての詳細はこちら
http://www.offshore-mcc.net/2014/09/release-infothe-observatoryoscilla.html
TOWER RECORDS ONLINE(日本版ライナーノーツ付き国内仕様盤) http://tower.jp/item/3709863
diskunion ONLINE(日本版ライナーノーツ付き国内仕様盤) http://diskunion.net/rock/ct/detail/AWY140904-OV1

“In the face of power, do you crumble /Or do you honestly express yourself?”

“あの力に向き合ったときお前は自ら散るのか?/あるいは、正直に自身を曝け出すか?”

前作より2年、シンガポールですでにその地位を築いたアヴァン・ロックバンドThe Observatoryは、コンテンポラリな音楽表現を絶妙にからめた新作を引っさげてパワフルに活動を再開した。その新作『Oscilla』は、昨今の酷い圧力に対して目を塞がず、政治的な意識をもって言及するものだ。彼らの前作『Catacombs』は完全に、狂気、自身の肉体、さらにはそれぞれの内面に住む悪魔など、そういった自らの内面に向きあう、旅のような作品だった。『Oscilla』は、我々の希望と行動を表した作品だ。前作は不確実性と妄想にクローズアップした反面、最新作では、確信をもって反抗する。

リリックの面では、『Catacombs』では彼らは"I"を多用していたけれど、今作『Oscilla』ではそれが"we"と変換されており、集団として政治的、社会的抵抗を掲げていることが読み取れる。1曲目「Subterfuge(口実)」では力強くこの節から始まる。「We are invisible / Illegible / By choice… We don't need to be seen… We just want to disappear"」コントロールされた現代社会。The Observatoryは、戦争や革命への抵抗が結びつかないこともあるが、しかし離脱することはできる、と言う。消失は、否定されるべきことではなく、回避すること。また、目を背けず受信し続けることが、前向きに拒否することになるだろう。それは、「口実を言い続ける者たちの背教者」になるということだ。

また、「Autodidact(独学者)」では、“Keep a distance from the system / The system seeks to dominate our thoughts”(体制から距離を置け/体制は私たちの頭の支配を狙う)と。この楽曲のタイトルは「独学者」。押しつけられる体制のシステムを回避した者に智を得るため、独学せよということだろうか。「Distilled Ashes(蒸溜灰)」では、心を浸食される音が「教育のハミング」とも。

今作のイメージに使われた写真は、今作のタイトル曲「Oscilla」から来るものだ。“Re-assemble the atoms of our Zomian mind / So we can climb up high / Wander along and beyond the borders / Up in the highlands of my Zomia(Zomiaとしての精神の根源を再び構築しよう/ならば私たちはここを降りれるか/国境に沿い国境を越えうろつく/我がZomiaの高台に昇ろうか)” Zomiaについて説明する。現代社会の枠組みの外で生活し、国家からの統治を避け続ける多様な民族が住む、北インドから東南アジアにかけての国境が交わる広大な地域のことをZomiaと言う。その民族たちは、「原始的」「文明以前の」と称されることがあるが、国家が形成する社会に反発しているという見識もある。(奴隷制、徴兵制、税金、労働、疫病、戦争などを回避していると、歴史学者ジェームズ·C·スコットは言説する。)フランスの哲学者Gilles Deleuzeのノマド概念との関連も見られる。この一帯に住む民族たちは、裏をかき頻繁に移動することによって、国家からの管理を避け創造的な暮らしを自ら選択しているという見方なのだ。

音楽的には、今作はクラウトロックの手法をうまく盛り込んだ作品と言えるだろう。アルバムにはたった4曲しか収録されていないが、うち2曲が約5分、うち2曲が13〜15分と長い楽曲も含む。催眠的で、酩酊させるようなビートは、瞑想、サイケデリック、幻覚のようなものを思い起こさせ、トランシー。バンドに新しく参加した2人のメンバーは、THE OBSERVATORYのサウンドに新しい鋭い感覚を取り入れた。ドラム・パーカッションのCheryl Ongは迫り来るようなポリリズムをダイナミックに刻む。また、電子音を担当するYuen Chee Waiは、デジタル・アナログ両方の機器を武器として使い、力強い新たなサウンドの広がりを見せてくれる。ベースのVivian Wangは、刺すようなシンセベースのサウンドで、肉体に響きながらもグルーヴィなベースラインを聴かせてくれる。ギターのLeslie LowとDharmaは、反復するリフの中に緊張感を構築する。ある楽曲のラスト数分間では、力強く執拗なリフに、Dharmaの激しいギターソロが重なりバーストしていく。

歌詞、ボーカルを兼任するLow。彼の声と詩は、このアルバムを聴いた者に深い印象を残していくだろう。彼の声は決して攻撃的ではないが、安定感のある低い声で静かな説得力を持つ。Lowが歌う今作最後の部分は、残酷で率直で、恐らく禁じられた哀歌である。「人々がなだれ込む…Singaporia…吐き出せ」と。これらの最後の言葉は、『Oscilla』の重要なキーワードであり、バンド自体の祖国シンガポールの政治に疑問をとなえているようである。一党独裁の長い歴史を持ち、国営メディアが支配する。都市国家と資本主義のモデル都市として「Asian Values」と名付けられ(これは権威による婉曲表現である)裕福でもっとも高い都市として世界に知られ、富裕層が豪遊する街。しかしそこに住む一般市民たちは高い生活費に悩み、新しい社会形態を作ることができないかと模索している。

『Oscilla』は、The Observatoryによる、草の根の抵抗運動と、自主的に拒否を示すことへの呼びかけである。音楽とは、感動を人々にもたらしつつも、社会の不正にスポットを当てるには非常に有能な手段であり、私たちの生活を守るために必要な戦術のアイディアをくれる。現代政治に市民が見捨てられてしまったエリアなら、尚更だ。

Mark Wong
Ujikaji
6 July 2014

対訳:山本佳奈子(Offshore)