【Report】バンコク実験音楽イベント『DRIFT』に行ってきた


バンコクの暑さと朗らかな人柄、いまだ発展し続ける経済と政治不安、そのような要素をひとつずつ揃えていくと、この土地で、じっくり聴く静かなノイズ、フィールドレコーディング、即興演奏などはなかなか根付かないのかもしれない。しかし前回の記事でお伝えしたように、ごく一部、メロディもリズムもない変わった音楽をこの地に根付かせようとしている音楽家は、少なくとも存在する。

今回は、Offshoreでは何度も紹介してきたオルタナティブロックバンドDesktop ErrorやTWO MILLION THANKSを輩出してきたSO::ON Dry Flowerと、バンコクのど真ん中に位置するBangkok Art and Culture Center(※以後BACCと表記する)の共催で行なわれたイベントをリポート。『DRIFT』と名付けられたこのイベントは2日間に渡り、海外からやってきた実験音楽家が出演。5回シリーズの第一回目であった。乾季に突入する頃のバンコクでは、多数の野外イベントや音楽コンサートが開催されており、残念ながら大勢の来場者とは言えなかったそう。しかし、なかなかこういった音楽を聴く機会のないバンコクの人たちにとって、まさしく実験的な貴重な体験となっていたはずだ。ここで何かを感じたバンコクの大学生や若い音楽家たちが、今回見た手法や要素を自らの音楽に取り込んでいく様子をこれからも追いたいと思った。
以後、時間軸にそってイベントの様子を紹介する。


DRIFT experimental sound project : Project #1 DURATION
2014年11月7日〜8日

場所:Bangkok Art and Culture Center
企画:BACC exhibition dept. / SO::ON Dry FLOWER
キュレーター:Koichi Shimizu / Pichaya Aime Suphavanij


| 1日目:Improvising session
演奏者:Crys Cole(カナダ)/ Goh Lee Kwang (マレーシア) / Robert Piotrowicz (ポーランド) / The Photo Sticker Machine (タイ) / Joe Fongnaam (タイ) / Sutipat Sutiwanit (タイ)



「Duration」=時間をテーマに行なわれた即興セッション。3組ずつ演奏家が演奏し、演奏家が引くくじで演奏時間がその場で決定する。5分、10分、15分、20分、無限の時間制約のなかで演奏する。経過時間も演奏家の中央で掲示されるので、観客も演奏家も必然的に時間経過を感じながら音を聴くこととなる。特に興味深かったのは、おそらく伝統音楽のフィールドにいるタイのJoe Fongnaam、エレクトロのバックグラウンドを持つThe Photo Sticker Machine、そしてオルタナティブロックのバックグラウンドを持つSutipat Sutiwanit(Zweedz n' Roll)の演奏する音はリズムや抽象的なメロディをもつフレーズになること。最初は、非常に違和感を持ちながら聴いていたのだが、終盤になるに連れて、それが気にならなくなっていった。即興演奏に、反復するリズムやフレーズは、絶対的に排除されるべきなのだろうか?とふと考える。




最後には、SO::ON Dry Flowerのオーナーであり今回の共同キュレーター、清水宏一氏と、BACCのキュレーターPichaya Aime Suphavanij氏によって質疑応答が行なわれる。恐らくこのような演奏を初めて見たと思われる観客が多く、初めて聴いたものに驚いた気持ちをそのまま表現するようなフィードバックも見られた。しかし、終始、こういった演奏会にありがちな堅苦しい雰囲気は一切なく、実験的で芸術性の強い音楽を一方的に押しつけない、インプロ未体験の観客に寄り添う温かい演奏会だった。(やはり良く効いたクーラーだけは寒かったのだが。)


| 2日目:Workshop
会議室で開催された各出演者のワークショップにも参加してきた。しかし、トップのRobert Piotrowicz氏のワークショップのみ、参加することができなかったのでBACCからのレポートをリンクしておく。
■Workshop 1 : Robert Piotrowicz(ポーランド)
https://www.facebook.com/media/set/?set=a.881833641841671.1073741836.856884277669941&type=1

■Workshop 2 : Goh Lee Kwang(マレーシア)

ベーシックなLee Kwangの活動の説明があった後、質疑応答で進めるスタイル。現在はダンスカンパニーへの楽曲提供も行なうLee Kwangの作曲方法なども紹介。彼はPCにバグを起こさせてその音を記録し音楽に用いたり、日常音のフィールドレコーディングから音楽を制作することなども。また、この日はバンコクのホテルの自室にて録音ボタンを押したまま外出してきたことなどを話す。元々絵を描くことが大好きで絵描きを目指し、学生時代にヴィジュアルアートに目覚め学び、それから音も制作するようになったことなど。おそらく今回の演奏家の中では一番フランクにあらゆることをユーモアたっぷりに話す彼であったが、(John Cageは何でもかんでも音楽と認めてしまって、まるでアメリカの押しつけ主義だとも)一部通訳がつかずに客席とLee Kwangで英語のみで話が進み、一部の英語を理解しないタイの若い参加者たちのことが気になった。

■Workshop 3 : Oren Ambarchi(オーストラリア) & Crys Cole (カナダ)

直前のGoh Lee Kwangのワークショップと比べると正反対の講義スタイルで、2人が影響を受けた歴代のサウンドアーティストの手法を紹介。サインウェーブのうねりや反復を利用した音を聴かせながら2人がトークする。直前のGoh Lee KwangはJohn Cageを痛烈に批判したのに対して、2人はJohn Cageの音楽が持つ深い意味を賞賛し、引き続きワークショップに参加している参加者から少し笑いが漏れる。一貫して、2人が共通して感じる「美しいアヴァンギャルド音楽」を提案していた。

■Workshop 4 : Arnont Nongyao (タイ・チェンマイ)

チェンマイ在住のサウンドアーティストNonことArnont Nongyaoは、自身のDIY楽器をずらっとテーブルの上に並べてワークショップをスタートさせた。彼が自作した「音の鳴るガジェット」を実際に参加者に体験してもらう。振動を発生させる装置に、極身近にあるガラスコップを様々な角度から当てて音が変化することをデモンストレーション。また、ランダムに傷を付けたCDRを回転するモーターの上に置き、固定したコンタクトマイクで音を発生させる実験など。参加者の好奇心の強さが感じられるワークショップだった。


2日目:Solo performances
Robert Piotrowicz

Oren Ambarchi & Crys Cole

海外から招かれた音楽家全員のソロパフォーマンス。ワークショップが長引いたため、予定を1時間ほど越してスタートした。来場者は100人に満たないぐらいで思っていたよりも少なかったが、来ている観客はそれぞれの演奏に見入っていた。パフォーマンス終了後には、それぞれの機材をじっくり観察する観客達も。しかし一日目の、タイの音楽家を含めたImprovising Sessionに比べると、観客の反応が薄かったような気もする。


DRIFTは全5回シリーズで開催されるとのこと。第2回は1月末を予定しているそうで、次回も海外から音楽家が訪れるとのこと。今まで日本で見てきた音楽演奏の概念を根本から問われるような体験だった。音楽自体が今後も発展していくことに希望を抱くのであれば、その土地土地で使われる言語が違うように、音楽におけるスタイルやルールもその土地土地で柔軟に変化させることを受け入れなければならないのかもしれない。先進国と言われる場所で発展してきた実験性の高い音楽は、そのままの形ではタイのリスナー達に受け入れられないだろうとも思った。


BACCからのオフィシャルイベントレポートは以下のfacebookページより閲覧できる。
https://www.facebook.com/pages/BACC-Experimental-Project/856884277669941

また、BACCの企画展はローカルのアーティストと取り組む面白い展示が多く、中の小さなショップ群でもタイの若い作家を知ることができ、タイのクリエイターを知るには絶好のスペース。サイアムに位置しておりアクセスも良いので、タイに旅行する際にはぜひ訪れてほしい。