【Report】Yan Jun/坂田明/Giovanni Di Domenico/Mathieu Callejaー北京zajiaでのコンサートレポート


北京在住音楽家、Yan Jun。静かなノイズを淡々と即興演奏のスタイルで鳴らし、音源作品ではフィールドレコーディングも多用。日常に溶け込むような、細くも存在感のある音。派手なパフォーマンスをする音楽家ではないが、その手法と10年以上に渡る活動で、広く世界に知られる音楽家の1人。彼のオーガナイズするコンサートに密着。

前日は北京School Barにて開催された坂田明氏・Giovanni Di Domenico・Mathieu Callejaの3人による中国ツアー。10月26日(日)、この日はYan Junのオーガナイズによりzajiaというオルタナティブスペースでコンサートが開催された。かつて道教の寺院であった場所を改装したスペースで、カフェ・バーのスペースと、イベントを開催するラボスペースに分かれている。


まずは出演者全員で北京式の火鍋を食べに行き白酒で少し体を温め、会場まで歩いて移動。そしてサウンドチェックが始まる。左スピーカーに難色があったもようだが、予定開始時間21時を30分ほど過ぎたところでスタート。サウンドチェックの頃から、会場外にはぞろぞろと人が集まり始める。ヨーロッパ系の人たちも3割ほどいただろうか。


会場内には椅子が並べられており、スタートする頃には30名分ほどの席がほぼ満席に。この日演奏するYan Jun・坂田明氏・Giovanni Di Domenico・Mathieu Callejaの4人が全員ステージ横に集まり座る。Yan Junは目を閉じ、客席も黙り込む。無音の時間が数分流れた後、4人の音楽家は或るタイミングで互いに頷き、ステージへ。



昨日のSchool Barとは打って変わって、終始、極端に静かで呪術的な演奏。元々お寺であった会場の空気も影響しているのか、非現実世界のような、しかしそれでいて極めて日常的にも感じられる。昨日はアップライトピアノの鍵盤を力強く弾いていたGiovanniはピアノ内部の弦に直接触れ微細な響きを出す奏法に集中、Yan Junは静かなノイズ音をじっくりと鳴らす。Mathieuがシンバルを弓で弾いたときの低い音がアクセントとなり、坂田氏のサックスやクラリネットの音が浮かび上がったかと思えば、消えていく。インプロヴィゼーションでパターン化された、全ての演奏家が音量を増していくようなクライマックスを迎えるのかと思いきや、裏切られる。一段と静かになった場面で、坂田氏が楽器を置き、歌う。低くしわがれた声が、木造の古い建物の中に響き、不穏な静寂の中に放り込まれるような瞬間だった。


zajiaには照明設備がなく、スイッチオン・オフの電灯のみ。Yan Junが、ライブ開始前に1人のお客さんに照明を任せていたらしい。60分ほどのコンサート中に3箇所ほどあった、曖昧に展開が変わる場面で真っ暗になったり、電灯が灯ったり。

最後には、ライブ直前にYan Junが目を閉じていたときの、あのピンと張りつめた緊張感が数倍になって戻ってきた。Yan Junの出す微かな音が最後に残り、その場に居た全員が身動き取れない時間が流れる。Yan Junが音を止めて一呼吸ののち、演奏家全員がまた互いに頷いて、ライブが終わる。拍手が響き渡る。

途中で出た観客もいたが、目前で起こっていることを真剣に見つめる何人かの若い男の子の目が、とても印象的だった。

このライブにて、坂田明氏・Giovanni Di Domenico・Mathieu Callejaの3名の中国ツアーは終了。ほっとした表情の3人は、観客と楽しく会話を交わし、また、Yan Junも北京の観客たちと笑いながら会話する。全7本、香港から北上して北京で最後のライブを終えた坂田氏に今回の感想を聞いてみる。中国でありがちなトラブルは全くなかったとのこと。また、中国のお客さんも非常に熱心で、日本も同じ東アジアの一員であるということを意識しないといけない、と。また、昨日の演奏と、この日の演奏のギャップが凄まじかったことに関しては、「今日はYan Junにすべて委ねた。やっぱり彼の世界感になったね。彼はSachiko Mに似た緊張感を持っている。」とも。

普段の会話では、存分に人を笑わせてくれるYan Jun。ごく自然体のオーガナイズには、彼のおどけたユーモアに溢れるキャラクターと、彼の持つマイペースなゆったりとした時間が表れており、Yan Junの世界に引き込まれるコンサートだった。

ちなみに本日のコンサートは入場無料。無料でコンサートを行なうと、コンサート自体を観ずにしゃべって帰る観客が多いので無料のコンサートは嫌いだ、と言う彼だが、今回は無料で開催したほうが良いという確信があったらしい。

ヨーロッパと日本の音楽家が中国でツアーを行ない、そこにやって来て何かを吸収しようと真剣に向き合う観客たち。それが聴いたことのないものであっても、面白い音だと思うかどうか、正直に反応している。坂田氏との会話の中で、私は「2つの公演を北京で観て、中国の音楽シーンに希望を感じました。」と坂田氏に伝えた。中国の草の根の音楽現場を体感された坂田氏が、この私の言葉に同感して下さったことは、私にとってさらなる希望である。