公演キャンセル、そして開催されたシークレット公演:Multiple Tap上海

Multiple Tap中国ツアーは北京、杭州、上海と3カ所で開催される予定だった。4月10日、上海会場となるはずだったRockbund Art Museum(外滩美术馆)に到着し、会場の下見を行なった。会場のバックヤードで翌日のための機材セッティングを終えたMultiple Tapメンバーは、会場スタッフやオーガナイザーとの歓談中に公演キャンセルを知らされた。

オーガナイザーと会場スタッフは、「今、中国国内で外国人のコンサートを開催することは難しい。特に日本人においては。」と私たちに言う。数ヶ月前からいくつかの日本人音楽家の中国公演キャンセルが耳に入ってはいたので、さほど驚くことはなかった。が、やはり上海で演奏できないことは非常に残念であるし、なんとか、別の会場を探してもらい、シークレットコンサートとして開催できることとなった。

オーガナイザーや中国の事情に明るい関係者から情報を集めても、それぞれの経験やそれぞれの見聞が交錯し、どういう理由で日本人のコンサートがキャンセルさせられているのか明確にならない。ただ、Multiple Tapのメンバーに失礼を承知で言うが、たかが100名程度の観客しか集まらないであろう日本人音楽家のコンサートを調べ上げる、中国政府の情報収集能力に唸った。会場Rockbund Art Museumのスタッフが話すところによると、上海市からではなく、北京の中央政府から中止するようにと連絡があったとのこと。また、公演中止していることを確認するべく公演予定日に赴くので通達を無視することのないように、と言われたとのことだった。

その後、Multiple Tapのメンバーと上海のオーガナイザーや音楽家、全員が集まってレストランで夕食を食べるあいだに、オーガナイザーが関係各所に連絡を取り、別の小さな会場でコンサートを開催できることとなった。

会場を移して開催されたコンサートには、残念ながら30名ほどしか観客は来なかった。シークレットコンサートとして開催されたため、インターネット上で大々的に告知は出来ず、オーガナイザーや共演する中国の音楽家からwechatのメッセージ機能を経由して彼らの友人たちに場所・時間等が伝えられた。wechatのMoments(facebookやtwitterで言うタイムライン)には、場所も時間も告示されなかった。

一連の流れをMultiple Tapのメンバーたちと一緒に体験しながら、ずっと考えていた。今後は、状況が良くなるだろうか。何にせよ、「中国で演奏をしたい」という日本人音楽家は減るだろう。さらに日本人公演キャンセルが今後も立て続けに起これば、日本の音楽家はもっと中国から離れていく。そうすると、ますます日本はアジアの中で孤立していくのかもしれない。

貴重な出来事を体験した。しかしこれは中国大陸に住む人にとっては今現時点でのベーシックでもある。このような環境でも音楽における場づくりをやめない中国の音楽家たち。また、近々彼らを訪ねよう。彼らの動きの一部を伝え続けることで、表現に関わる人並びにそれを受け取る人たちが、政治を越えて結びつくことを望む。

レポートとしては、シークレットライブを開催させてくれた会場を特定されないように、写真の貼付は控えておく。
以下、数名の観客、音楽家へのショートインタビューを掲載する。

観客 30代前半の男性
──どうやってこのショウを知りましたか?

僕は今日出演していた上海のミュージシャンの友達なので、彼にwechatで教えてもらいました。
──どうでしたか?
良かったです。ただ政治的な理由で本来のコンサートがキャンセルになったのはとても残念です。
──こういう音楽を普段聴いていますか?
はい。元々両親がジャズやフリージャズを聴いていたので、影響を受けてこういう音楽を聴き始めました。今日来ていた日本のミュージシャンはほとんど知っていました。
──たくさんCD買ったんですね?
はい、全部で5枚買いました。いつもはインターネットで聴いています。douban(※中国のSNS)のサービスで音楽を聴いていると、どんどん関連するアーティストを探していけるので、そこで良い音楽を探しています。

観客 20代半ばの女性
──どうやってこのショウを知りましたか?

wechatで今日の出演者の1人が教えてくれました。
──普段はどういう音楽を聴いていますか?
エレクトロを主に聴いています。
──じゃあハウスやテクノなど?
そうですね、テクノっぽいものが多くて、実験的な音楽はあまり今まで親しんでいないです。
──今日のどのセッションが一番好きでしたか?
私は一番最後の全員でのセッションです。全員の音楽家が一緒に演奏して音が混じる様子。あと、大城真さんと川口貴大さん、小さな音の鳴るものをたくさん組み合わせて演奏していて面白かったです。
──またMultiple Tapが上海に来たら、見たいですか?
もちろん。こないだは、cokiyuやcuusheを見に行きましたよ。日本の電子音楽も、もっと見てみたいですね。

Multiple Tapより 秋山徹次中村としまる
秋山徹次(以下、秋山):中国の人たちがコンサートを頑張って成功させようとしてくれるので、助かりましたね。気持ちよく出来ました。
中村としまる(以下、中村):僕は2回目の中国での演奏で、前回も同じオーガナイザーがやってくれてるから、お客さんの入りも、運営のスムーズさも変わらずで。良かったですね。
──今回はまさかの上海での公演キャンセルもあって、正直どう思われましたか?
中村:さっそく、「I am not Abe」のTシャツ買わなきゃいけないなと思いましたね。いっそのこと、演奏中に警官隊が傾れ込んできたら良い絵が取れたんじゃないかなと思うけど(笑)。
秋山:まあ、慌てて騒がず、と。こっちの人はこういう事態に慣れてるからお任せして、そうしたら1時間ぐらいで別のスペースを見つけてくれてね。俺たちより彼らのほうが大変だったからね。
中村:そりゃそうだ。でも、こっちがすんなりと「わかりました、じゃあ観光して帰りまーす」って言っちゃったら、そうなっちゃったかもしれないけどね。ある程度「スケールダウンしてもいいから、他の場所探してもらって、シークレットでもいいからやりたい」っていう意思をしっかり見せたから、向こうもやる気出してくれたのかもしれない。わからないけど。
──中国の街を歩いてどうでしたか?中国の社会や生活で何か感じることはありましたか?
中村:中国の人、国だの体制だので窮屈かもしれないけど、街を見ていると、人はのびのびと暮らしてて。日本のほうがよっぽど窮屈なのかな?と思っちゃいましたね。中国の人たち、うらやましいぐらいに自由に生活してるなあ、と。市場に行くと、魚もエビもカニも生きたままで売ってて。日本はもう全部パックになってて死んだ魚、死んだエビとかしか売ってない。中国のほうがよっぽど生活の質は高いんじゃないかな?って。
秋山:こっちで毎日外食したら、なんか体の調子良くなったね。
中村:ちょっと油っこいけどね。僕は完全にお腹壊してます。
秋山:僕は秋にも中国ツアー決まってるんですよ。
中村:入国させてもらえるのかな。
秋山:まあ次のツアーはまた別の人がやってくれるので、そっちでちょっと話してみます。
中村:またいつでも来たいけどね。
──中国のミュージシャンと一緒に演奏してどうでしたか?基本的に、若いミュージシャンが多かったですが。
中村:若い。中国の音楽家だからどうっていうことよりも、若い、っていうことのほうが先にあったかな。
秋山:北京のMultiple Tapレポートとかも見たけど、「自分たちはまだ発展途上だ」って言うミュージシャンもいたりして。ただそういう自覚があるっていうことは、これから延びる可能性があるってことだし。情報が限られてるなかでも、みんながんばってて、ベクトルは上がってきていると思うんで。あと、見に来てくれたお客さんもすごい積極的だし、これから発展していくんじゃないですか。